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西遊記 はじまりのはじまりのYSKのレビュー・感想・評価

3.6
もしかしたらチャウ・シンチーはただ一流のエンターテイナーというだけではないかもしれない、見ようによっては恐ろしい作品でした

三蔵法師が三蔵法師になる前、孫悟空や沙悟浄、猪八戒と出会い旅立つまでのお話ですが、ただ『少林サッカー』ではあれだけ面白かったはずのギャグがだだ滑りしていてとても同じ人が描いたようには思えないし、そういう意味では見るのが非常につらかったものの、ただすごくすごいものを描いているし、仏教というものに則て見ても「こんな書き方ができるのか」と感動すら覚えました

冒頭でいきなり漁村を襲い少女とその母親を食い殺した沙悟浄しかり、殺し自体を楽しんでいそうな猪八戒やヒロインを三蔵法師の眼前で殺し高笑いをあげる残虐さとずる賢さを併せ持った孫悟空など、そんな妖怪どもが改心などするものでしょうか、いくら大事な使命を胸に秘めていたとしてそんな妖怪どもと旅することができるものでしょうか
そしてただのアクションコメディならばそこまで原典に寄せる必要もないというのに、どうしてそこまでの覚悟を持ってぶっこんでいるのか、いやすごいよチャウ・シンチー

読んで聞かせることによって妖怪たちを改心させることを目的とした「わらべうた」を師匠から授かりながら一度も成功したことのない三蔵法師、それにたいし「何の役にもたたない」と破り捨ててしまったヒロイン、しかし命の危機に瀕し「謝りたい」と心から願い字が読めないながらも夜通し修復した「わらべうた」を返すと…
これが『西遊記』でなければとんだご都合主義だと鼻で笑うところですが、これは原典でも描かれた「文字の羅列にすぎない経に、心が命を吹き込んだ」瞬間であり、その瞬間を見逃さないために修行するのだというすごくすごい伝わりにくいことを真正面から描いた、非常に恐ろしい映画だなあと思いました
そしてこの映画と真逆の位置にいる、「うるせえやられたらやり返すんだ、そうしないと救われないんだ」と言っているのがみんな大好き『ジョンウィック』でしょう

やっぱりこの男はすごいですよ
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