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ミス・バイオレンスのakrutmのレビュー・感想・評価

ミス・バイオレンス(2013年製作の映画)
4.1
家族7人揃っての誕生パーティの最中に11歳の娘が飛び降り自殺した事件をきっかけに、家族の秘密が明らかになっていく様子を描いた、アレクサンドロス・アヴラナス監督のサイコ・スリラー映画。第70回ヴェネチア国際映画祭で最優秀監督賞(銀獅子賞)や最優秀男優賞を受賞するなど国際的に高い評価を受け、ハリウッドに招かれたアレクサンドロス・アヴラナス監督はジム・キャリー主演の『ダーク・クライム』を監督したが、酷評される結果となった。

かなり衝撃的な、精神的にキツい内容だけれど、秘密が明らかになっていくまでの不穏な演出や登場人物たちの演技などが秀逸なので、映画としての完成度は高い。家族が住んでいるアパート内でのシーンが多く、どこか小津を思わせるような固定カメラによるショットで映し出される微妙な空気感や、一家の主である初老の男性を演じたテミス・パヌーの演技が光る。JAIHOのあらすじは少し晒しすぎで謎が明かされるという楽しみが半減するので、鑑賞前に読まないほうがよい。また、このあらすじには間違いがある。14歳の少女ミルトが自殺した11歳の少女の姉と書かれているが、作中では老夫婦の年下の娘となっている。この家族の家族構成が本映画のポイントにもなっているので、余計に微妙な間違いなのであるが…

本作も「ギリシャの奇妙な波」の代表作とされているが、ヨルゴス・ランティモス監督などの他作品のような「奇妙さ」はなく、内容はともかくストレートな映画である。批評の中には本作の内容をギリシャ危機と関連付けるものも少なくないし、確かに動機としてはあり得ると思うが、そこまで無理やりに結び付けなくてもという気もする。アレクサンドロス・アヴラナス監督は事あるごとにギリシャ危機との関係(=ギリシャの奇妙な波との関係)を否定していて、ドイツで実際に起こった11歳の少女の自殺の理由を想像していくうちに、本作の素案が出来たと話している。それでも、夫婦が動物のTV番組を見ているシーンは、表面的には否定しながらも深層ではギリシャの奇妙な波とつながっていることを暗示する合図のように思えてしまう。
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