去年スクリーンで見逃した作品。
トルコ映画は観たいのがたくさんあるが、とにかく本作を観てみたかった。
主人公はアスランという少年と闘犬のシーヴァス。
アプリのあらすじ欄にあるのは前半で、そこからは展開というか雰囲気が変わる。
アスランの成長が描かれてはいるが、それは何かを失ったり諦めることと引き換えに得られる成長という現実的なものであった。
ただし、アスランが絶対にひとつだけ退かないことがシーヴァスとの絆なのである。
アスランの兄がシーヴァスを売り飛ばそうと画策しているのに気付いたアスランの抵抗のシーンはリアルに純真さ故の狂気も描かれており、アスラン役のドアン・イズジの演技とカアン・ミュジデジ監督の演出がケミストリィを起こしていて、素晴らしいとしか言いようがない。
ミュジデジ監督・脚本の描く本作の世界は、大人の社会の都合を冷ややかに切り取ったものになっている。
カメラワークはドキュメンタリー映画のような感じでカット割りも独特。
脚本ではなく絵面で語っているような感じであった。
それにしても本作の前に闘犬に魅せられた人間の短編ドキュメンタリー映画(本作のDVDに特典映像として収録)を撮って、それが認められて初の長編映画が本作となったミュジデジ監督だけに、本作の闘犬シーンはそのまんまリアル。
だからワンちゃん好きな方の中には傷つくワンちゃんを観て悲しくなる方もいらっしゃるかと…
だが、人間たちのそれぞれの想い、思惑、計算、駆け引きとは関係なく、己の存在を闘う本能で知らしめる闘犬たちの姿は哀しくも美しい…
人間から闘うことを義務づけられたように見えるシーヴァス。
しかし実はシーヴァスは人間のことなどどうでも良いと思っているのかも知れない…
それにしてもイズジ君の眼力は大したものであった。
役者を続けていくのかわからないが、何の道でも大物になれる予感がする。
シーヴァスを演じたワンちゃんは闘犬の中でもやはり眼力がある。
もう長いことワンちゃんを飼っていないが、シーヴァスなら飼ってみたい。
決して闘犬が好きなわけではないが…
トルコのアナトリア地方の空気感なのであろうか、独特の重く垂れ籠めた空の灰色とくすんだ光。
その中で生命力のある色が時折挿し込まれる映像は不思議な魅力であった。
決して万人向けではないと思うが、ハリウッド映画とは違った雰囲気の作品を探している方にはお勧め。
最後に…
何故、闘犬はハマる人たちが世界的にいるのだろう?
本作はトルコだったが、前回レビューの「ホワイトゴッド」はハンガリーだったし、あのイニャリトゥ監督の長編デビュー作「アモーレス・ペレス」はメキシコ…
他にも闘犬が出てくる映画はたくさんあると思うが、とにかく闘犬好きが多いということを実感している。
私はワンちゃんは人間の下僕や金儲けの道具ではなく、人間の良きパートナーとして好きなのだが…