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アバター:ウェイ・オブ・ウォーターのnatsuoのレビュー・感想・評価

4.8
「圧倒的な美の暴力」

自分はYouTubeで逐一映画の予告をチェックしている。Twitterなどでも情報を収集しているし、最新情報や特報には目がない。
しかし今作の予告はサプライズで劇場で流してきた(恐らくドクターストレンジMoMだった気がする)。ああ、ずるいな、なんて美しいんだ、と予告だけで落涙してしまったのだ。小さなスマホやPCで観なくてよかった、大きなスクリーンで観れてよかった、と。そして今後観る映画がかすれてしまうじゃないか、と。

前作鑑賞時、自分は5歳だった(歳がバレる)。映画館にはよく連れて行ってもらって映画が大好きだった。そんな幼児が、初めて3Dでアバターを観た(そもそも幼児に3D映画は大丈夫なのかという疑問は置いておこう)。ストーリーなんて微塵もわからないが、目の前に広がる美の暴力に自分は屈したことを覚えている。本当に大興奮だった。美しい、それだけでは表せられない美しさ。パンドラの自然やクリーチャーに対をなす最新兵器やビークル。そしてナヴィ族とアバター。物心もついてない自分はただただ圧倒されていた。

未だに世界興行収入ランキング王座を譲らないアバターの13年越しの新作なわけだが、期待しないはずがない。しかし同様に不安もあった。ストーリーは古いわけだし、3Dももう新しくはない。当時画期的でどの映画よりも群を抜いていたものは、それがむしろ基準となって後続はそれを抜くわけである。仕方のないことだ。その他、若手監督の活躍やVFX、CGの進歩に、巨匠キャメロンはどう立ち向かうのか。信頼と予算をプラスに持っていけるのか。自分なんかが語れる話ではないが、アバター(1作目)を観て育ったからこそ、特別な思い入れと我が子を見守るような気持ちがあった。
この作品も大学受験で乗り遅れてしまい、日本での興行があまりよくないだの前作越えならずだの嫌なことがちょくちょく聞こえていた(極力情報は遮断していたのだが)。そしてやっと観れるとなった時、IMAX上映が終了していて愕然とした(公開から2ヶ月は経っていた)。絶対に普通のスクリーンでは観たくない、それなら観ない方がマシとまで思っていたのでどうしようかとあらゆるサイトを見ていたところ、Dolbyシネマがやっているのを見つけたので即予約。2000円!?と高校生(普段は1000円)の自分は驚いたが、まあ良いところが取れてよかった。恐らく初めての3D DolbyHFRだったと思う(Dolby Atmos自体は何度かあるが)。

流石にストーリーを忘れていたので前日の真夜中に前作を視聴。今でも興奮した。同時に、今やっている3Dリマスターを観に行けばよかったとPCを見る自分は後悔した。
期待と不安で劇場への道も間違えるほど当日は緊張していた。本当にダメだったらどうしよう、正直退屈だったらどうしよう、と。SW9のような感覚になる。仰々しいDolbyシネマの雰囲気、Dolby Cinemaとだけ書かれたスクリーン、上映前にループ再生されているメインテーマ、もう1度は観たのであろう周りの観客。そう、SWと違うのは、自分は乗り遅れたし情報も遮断していたので周りより無知だった(SWは公開初日に行った)。シアターで一人、ひたすら緊張して、何度も3Dメガネを磨いた。


予告の後、始まったパンドラの映像。涙が出ていた。なんて、なんて美しいんだ。すでに不安は消え去った。ストーリーの不安は多少あったが、これまた美の暴力だろう、もうストーリーなんてどうでもよくなっていた。パンドラは、ナヴィ族は、アバターWoWは、こんなにも美しい。我々に瞬き一つ与えない映像美。我々に物音一つ立たさせない音響美。不安になってごめんなさい。あんたは凄いよ、キャメロン。誰が何と言おうと、自分の力で創り上げるアバターの世界。絶対に誰もこの映画を創ることはできないし創らせない。マーベルやDCを批判した巨匠はやっぱり凄い(それらは好きなので批判については同意しかねるが)。
冒頭は前作のように、空でイクランを駆る主人公たちの映像。パンドラは森も美しいが、空も美しい。浮遊している孤島の間を飛ぶ様はワクワクする。何より前作からの進化を感じる。13年前なのだから当たり前だが、まさに前作と同じような場面だからこそ、その映像の違いが際立っていた。意図したのだろうか。13年前の奇跡を再び蘇らせ、進化させていた。前日夜更かしして前作を観てよかったと思えた。しかしこんな映像美、今まで観たことがなかった。SWやマーベルなど、前線にいる視覚効果の良い映画は一通り観てきたが、本作は流石に比類なかった。新しさや斬新さは感じない。ただこれまでのステータスを上に上げただけなのだが、それでも凄かった。前々日にRRRを視聴して、それは独特で面白い映像だったのだが、これはまた切り口が違う。とにかく美しい。映像の美しさをこれでもかと上げている。
そして何より水、海だ。前作ではあまり表現がなかった水だが、本作は海に住むメトケイナ族の登場や新たに海のクリーチャーが登場するわけで、非常に重要である。この海にはやはり鳥肌が立ち落涙した。現実(地球)の海より桁違いに美しい。どうしても比べてしまい可哀想なブラックパンサーWFより遥かにいい。個人的にトップクラスで好きなローグワンのスカリフもこれには顔負け。海は、水はこんなにも美しいのか。水面だけでなく水中、海底までも美しい。そして恐ろしい。海の深さは計り知れないし海棲動物の恐怖も付きまとう。呼吸もしかり(特殊な呼吸法があるようだが)。なぜ美しいものに恐怖を加えるとさらに良くなるのだろうか。相乗効果なのか対比効果なのかわからないが、美しさも恐怖も底上げされている。海というのは大きな自然の脅威だし、美の象徴なのだ。
海に棲む新たなクリーチャーもとても良い。凶暴さと可愛さを兼ね備えたデザインなのは、現実の、特に海生哺乳類と近い気がする。自分はシャチもクジラも大好きなので、彼らを彷彿とさせるイルやタルカンは愛おしくて仕方がなかった。
対して、RDA及びスカイピープルである。前作でも大興奮したガンシップやAMPスーツはもちろん、新たな海船シードラゴンや捕鯨(捕タルカン)船、潜水艦にクラブスーツなど、これらを好きにならないはずがない。わかりやすいほどナヴィ族と文明レベルの差を見せつけてくるこれらのビークルだが、侵略者であるにも関わらず好きになってしまう。特にクラブスーツが好み過ぎる。
この映画を通して自分が最も興奮したのは、RDAが再びパンドラに降り立つシーン。設定上違和感はないのに、映像としては逆に新鮮な宇宙の映像に、これまた尋常じゃない大きさの宇宙船が映る。2001年を彷彿とさせる構図に、ここでもキャメロンの暴力が活かされる。アバターは宇宙も美しいし恐ろしい。先ほど観ていたパンドラの自然に、あからさまに重苦しい無機物が迫る。銃やラボは得て少しは進歩したナヴィ族だが、そんなのミジンコレベルに感じられるほど巨大な宇宙船。これまたローグワンやSW4を想起させられる。それが遥々パンドラにやって来た。広大な自然に、そんなに?と思うほど吹かれるジェット煙。もはや森を炙っていると言っても過言ではない煙とバーナーの量である。森の悲鳴が聞こえる気がする。しかしそれが格別に美しい。子供心をくすぶるし、非常にワクワクする。(後にヴィジュアルディクショナリーを読んでわかったのだが、この機体は"マニフェスト・ディスティニー"と言うそう。1840年代アメリカでの西漸運動の正当化として用いられた言葉だが、より一層当時の先住民に対する抑圧が苦しいものに感じられてしまう。なんとも的確なネームチョイスだ。)自然を燃やし尽くし、自らのエゴの為にパンドラへ降り立ったその様は、再び破壊と虐殺の限りを尽くすという表明なのだと思った。

とにかく映像が良すぎるのだが、音響も良い。この映像美に負けていない。Dolbyで鑑賞して正解だなと思った一つが、音響である。8,16方位どころではない、あらゆるところから流れてくる音。小さな音も大きな音も低い音も高い音も全て伝わってくる。自然の音は美しい。風になびく草の音、野生生物の鳴き声、心が浄化されるような音の数々。それに対する人工の音。先の宇宙船のバーナーの轟音や銃の音など、恐ろしさも音を介して伝わってくる。なんとも巧みな映像と音響のマッチングだ。

ストーリーについては、あまり多くは語らない方が良いと思う。色々な要素が盛り込まれていたために、どれも中途半端な気はした。ジェイクらの成長や子供たちの成長もそこまで感じられず、その点は残念だ。大佐(本人ではないが)はよかったぞ。キャメロンも我々も、結局大佐が大好きなのだろう。元気そうで何よりだった。
ストーリーについてはまだ3作品控えているということで、今後に期待している。

しかし、古いストーリーかも、と先述したが、結果的に現代の我々に響くテーマを孕むこととなったのも本作。植民支配や文化,伝統の破壊などは確かに重きを置いているが、それよりも自然破壊。森林はもちろん、今日は海洋汚染が大きな問題となっている。進む技術革新に比例して進む環境破壊。アバターの地球人はその末、再び同じ過ちを犯しているのだが、なぜ学習しないのかなーと考えさせられる。現代にこんな思想の人はいない、と思ってしまうが、某元大統領の自国第一主義や某大統領の隣国侵攻を見るとどうも首を傾げてしまう。これらは環境破壊とは異なるため割愛するが、思想の根源としては同じなのだと思う。成長と進化の過程で多くのものを得てきた人類は、この先どうなるのだろうか、とても考えさせられた。
海洋汚染は広く叫ばれており、日本もようやくレジ袋有料化などの動きを見せたが、恐らく改善されるのには相当な時間がかかるだろう。今や本作のような美しい海はどこにもないのだ。自然は人間の思っている以上の存在なのだ。もちろん乱獲や密漁も自然を破壊する。いくら技術が進歩したとて、我々の手に負えない自然ではその専門家たち、つまり自然と交流すべきなのだろう。自然に心を開き、文字通り対話することが今日の環境問題解決の一歩なのかもしれない。ナヴィ族はそうやって自然と協力して生きてきた。エイワへの信仰もそうだ。美しい自然を護るため、彼らは強大なスカイピープルに立ち向かうのだろう。やはり避けられないテーマである。自然破壊や環境問題を訴えてきた作品は多くあるが、こちらは自然の美しさで勝負してきた。もちろん敵う競合相手などいないが、この自然に心を打たれた我々は、何か行動を起こさなくてはいけないのだろう。Fortressは我々なのだろう。


色々な意見が散見されるが、個人的には本当に良かったと思う。ストーリーについては目を瞑るが、むしろ瞑れるほどの美の暴力である。何もかもが美しい。13年前心を打たれ、待ちに待った新作は進化して帰ってきた。幻想的で非現実的だが、どこか懐かしさを感じる。自然の脅威を感じるが、自然の温かさも感じる。アバターは、映画というより芸術作品として我々に寄り添っているのだろう。自分で読み進める読書とは異なり、基本的に視聴者は受動的になる映画鑑賞。人間の持つ感覚を最も直接的に、最も多様に刺激する映画鑑賞で、キャメロンはひたすら我々に美の暴力をふるってきた。何とも嬉しいことだ。キャメロン自身もこの13年、苦悩の連続だったのだろう。しかし、今、上映した意味は大いにあったと思う。先の環境問題への訴えに加え、コロナ禍による悲劇から映画界を救った作品(TENETやマーヴェリックなど)に仲間入りを果たし、世界興行収入3位まで昇りつめたのは快挙だと思う(日本ではそこまで注目されていないのには少々憤慨しているが)。本当に素晴らしい作品であり、本当に素晴らしいフランチャイズだと思う。今後3作にも期待しているが、また同時に不安も感じるようになるだろう。その不安をどうか吹き飛ばして欲しいと願うばかりだ。

[字幕・3D・DolbyHFR]
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