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殺されたミンジュのnetfilmsのレビュー・感想・評価

殺されたミンジュ(2014年製作の映画)
3.2
 夕闇の中、少女は怪しい男の付いて来る気配を感じ取り、足早に歩くがその気配は徐々に大きくなる。路地裏に入り込んだところで彼らの足音は更に大きくなり、少女は小走りに走り去るが男たちに囲まれ、生け捕られる。5月9日、女子高生ミンジュは男たちに無残に殺された。その事件は犯人が見つからないまま風化していくかに見えた。ある日、レストランで彼女と仲良く談笑し、帰路に着くかに見えた男(キム・ヨンミン)は怪しい集団に車内から突然拉致される。頭陀袋を頭に被らされながら、怪しい地下道に連れていかれた男は、そこで謎の集団のリーダー(マ・ドンソク)の尋問を受ける。今作のジャンルはサイコ・サスペンスだろうが、ここには名刑事や名探偵の類の人物は一人も登場しない。謎の集団がいったい何の目的で自分を拉致したのか男は訝るが、「5月9日にしたことを全て書き記せ」と言われ、拷問を受けたことでようやく腹を括ることになる。男は彼女から自分の仕事に信念を持てと常々言われていた。信念がなければ、一生誰かに使われて終わるのだと。

 謎の集団は登場時のみ、ややファニーな感情を抱かせたが、徐々に彼らの背景が明らかになることで単なる烏合の衆だとわかる。集団はリーダーの命令で、女子高生ミンジュ殺害の犯人たちを一人一人拉致して行くのだが、彼らの答えは決まって上からの指示に従ったのだと嘯く。そこで責任の所在は明らかにされなければ、少女がなぜ殺されねばならなかったのもわからない。『アリラン』で映画界に華麗に復帰してからのキム・ギドク作品は「復讐」が大きなテーマとなるが、ここでの復讐は決して胸のすくものではない。集団は同じ制服を着た夜だけ規律を守るが、昼間の彼らは各々が様々な日常の抑圧に苛まれている。大学に行かせてくれた兄からの抑圧、同棲するDV男からの抑圧、彼女にセクハラする上司からの抑圧。リーダーだけが持つ実弾入り銃はおもちゃの銃の出番を待って、ようやく火を噴く。拷問された容疑者は欺瞞に満ちた怪しい集団の動きを途中から最後までじっと見ている。上からの命令を黙って聞くような軍人たちの恥さらしな感情を暴き立てながら、不安定なままの男は石の上に腰掛ける。キム・ギドクの不条理劇の最期はいつも呆気ないものとなる。
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