レオピン

狙われた男のレオピンのレビュー・感想・評価

狙われた男(1956年製作の映画)
-
ブーちゃんこと市村俊幸とのビル屋上での対決は、マ・ドンソクの『犯罪都市』のよう。
常に敬語で穏やかな紳士面をしていた男が犬をしこたま蹴り上げる。その本性が表れた瞬間。

まだ低層の木造建物が目立つ銀座の街並み。細かいビルの間を使ってうまく撮影していた。人々の暮らしぶりは、銀座といえど昔ながらの江戸長屋と変わらない。町内の噂話やゴシップであふれている。前科者の青年が殺人の疑いをかけられ、四面楚歌の中で犯人をつきとめる。

内藤武敏の刑事はアームチェア探偵のごとく何もしない。かと思えば謎の電話をかけたりして容疑者の行動を誘ったりもする。『天国と地獄』の仲代に匹敵する不気味な刑事だった。

眼球のアップから始まり、落ちていた義眼、床屋の回転灯と、いたる所で目が散りばめられる。その目は世間の好奇の目。あの庶民たち、言いたいだけ言って噂を広めておきながら、自分たちのすぐ側に悪がいることを知って気まづそうに下を向く。主人公が街の声を幻聴のように聴くところも、狭い世間に狙われることの怖さ、やりきれなさを感じた。

ミステリー好きの中平監督の実質デビュー作。軽快なジャズにのって銀座の町を走り回る若き姿が目に浮かぶ。
レオピン

レオピン