垂直落下式サミング

シン・ゴジラの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
5.0
『ファイナルウォーズ』から実に12年ぶりとなる日本のゴジラシリーズの最新作。
『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明が総監督を務め、特技監督には『平成ガメラ』シリーズの樋口真嗣。スタッフ・役者ともに日本映画の最高戦力達が名を連ねている。近年は日本のSF大作は爆死続きだったため情報が出る前から不安が一杯だったが、2014年のハリウッド版が霞んで見える程の大傑作だった。日本SF映画まだまだ行けるじゃん。期待値以上の出来に満足な限りであります。スゲー面白かった。庵野監督…偉そうに「さっさとエヴァ作れ」とか言ってすいませんでしたm(__)m

本作には主要登場人物に所謂一般人は居らず、政治家や閣僚が事態解決に奔走する災害パニック映画だ。多くの人が褒めている通りゴジラ以外のすべてがリアルで、大都市に上陸した巨大生物によって引き起こされる大災害とそれに対抗しようとする政府要人の苦心を追ったドキュメンタリー作品のよう。長谷川博己がゴジラ進行跡地の瓦礫山に手を合わせるシーンは、震災を経験した我々日本人には重く突き刺さるものがある。2014年版の『GODZILLA』にも日本の原子力施設がメルトダウンを起こすシーンがあったが、あれは俺達の歴史的苦難を映画のネタにしやがって!と反感を持ってしまったし、悪いけど他人事な描き方に見えてしまった。やはり本物は当時の当事国の空気に触れた者にしか作れない。岡本喜八監督の写真出演とかもテーマに即しているし、冒頭の東京湾を漂流する無人の船舶は『肉弾』のラストを思わせる。過去の日本反核反戦風刺映画へのリスペクトの精神を感じる。日本にしか作れない日本の映画だ。
役者の面々も演技プランが的確で、邦画作品特有の役者が無意味に喚き散らすシーンがないのが偉い。役者の感情的な演技が入り込む余地がなくストレスを感じずに鑑賞できた。石原さとみは完全にアスカだし、尾頭さんがインテリ可愛い。
一作目のゴジラは、核や災害等の人間が作り出した脅威の象徴であり、それが怪物となって近代化する日本にしっぺ返しを食らわせるという話だ。この第一作目が怪奇特撮映画として完璧で、日本の怪獣映画というジャンルそのものを確立した偉大な作品だ。
敵怪獣もSF兵器も登場しない「ゴジラしか嘘のないゴジラ映画」は意外と今まで一本も無かった。一作目ですらオキシジェンデストロイヤーという架空の超科学兵器を使用することで、ゴジラを倒し物語に幕を引いている。映画の作り事は1つだけ。この思いきりの良さがすごくいい!本作では今現在自衛隊や米軍が大量配備可能な兵器しか登場しないため、よりリアルな現実と創作とのすり合わせが生じ、人類側の武装を意に介さず、祟り神となって歩を進め破壊の限りを尽くすゴジラの姿に、登場人物と同様に絶望や恐怖を感じずにはいられないのだ。
今回のゴジラのデザインは、腕が細くて歯並びも悪く肌はケロイド状に醜く爛れた質感。1954年のオリジナル版を強く意識していることがわかる。このおぞましい造形で人智を超越した災厄を撒き散らす鬼神の姿こそゴジラという怪異の正しい姿なのである。
物語が展開していくなかで、日米安保下の日本と彼の国との力関係や、国連の圧力等の国際的な問題が浮上してくるのも現実的な国家摩擦が背景にある。国や国民のことを大切に思っていない役人は実のところあまり居なくて、有事の際には意思決定のために幾重にも会議を重ねたり、膨大な量の手続きに目を通したり、さらに多くの雑務をこなすため部署を臨時に設立したりと、色んな人達があれこれ手を回して、各々の役割に誰もが責任を持って巨大な問題に対処してくれるわけです。一人の英雄的決断によって全部が解決するより“One for All, All for One”の精神が感じられて、みんなが事態解決のために一生懸命なのが好印象。日本政府とゴジラとの最終決戦となる「ヤシオリ作戦」を指揮するため自ら現場に立つ矢口の決死の行動こそ、3.11に政府がすべき決断だったのではないか?と投げかけられているようだ。
ただひとつどうしても嫌なのは、ゴジラの生物としての設定。ゴジラが口から一直線に伸びるビームみたいな光線を「シュゴゴゴーッ……ビィィーーーッッ!」って吐くことに納得できなかった。あのシーン事態は美しい大破壊描写だか、ゴジラが口から吐く放射熱線は体内の核融合時に放出されるガンマ線とかチェレンコフ光とか、その手のヤバイものが含まれる熱放射現象であってビームじゃないんですよ。だって小学生の頃に読んだ「だいかいじゅう図鑑」に書いてありましたから“ほうしゃかえん”だって!ゴジラである以上そこは守ってもらわないと困る。それだけならまだしも背中や尻尾からもレーザーを出すのはなんだかなぁ…。巷で囁かれるシン・ゴジラファーストインパクト説に信憑性を感じなくもないけど、ゴジラは使徒じゃないんだから…。とは言えそんなもんはこの傑作にとって小さなことだ。
もうこれがシン・エヴァでいい。庵野さん、僕らファンはもう何もうるせぇこと言わない。エヴァの続編なんて他の作家に任せちゃっても構わないから、自分が今一番作りたい映画を優先して作ってほしい。
今、日本で作られるべき日本映画だった。