垂直落下式サミング

しんぼるの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

しんぼる(2009年製作の映画)
3.5
松本人志がおちんちんだらけの部屋に閉じ込められるってなわけで、旧作のなかでは今いちばん熱い作品なんじゃないかしら!俺ってば、政治も経済も国際情勢も、まったくもって無知で疎いけど、ゴシップだけは耳ざといからな。舐めんな、マジで。
まだ現時点では疑惑の段階であるから、どうにも歯切れは悪くならざるを得ないんだけど、被害者女性の心痛を思うに、あんまり茶化すのもどうかと思う。けれど、瓦版大好き日本人の血統にはあらがえない。下半身マッチョ討伐作戦ほど面白い娯楽はないんだもん。
大物タレントが老境に入ってから、最後に提供してくれる一世一代のコンテンツは、醜くて浅ましいスキャンダル。ここで、既得権益にあぐらをかいてる奴らであっても、しっかり首を討ち取れると示してほしいな。逃げの一手を許さない良い時代になったなと、とても安心しました。松ちゃんだいすきっ!
そんなわけで、わざわざTSUTAYAでこいつをレンタルしてきたのである。松本人志映画は、国内外において特段評価されたってこともなく、本作が公開された時もクソつまんない上に話題にも上がらなかったショッパイ成績ではありました。が、文春の記事が出たあと「こういうことをしてた奴が作った映画」として再度観賞してみると、けっこう深い味わいがあるというか、別の意味を持つと言うか…。
不思議な部屋に男が一人。壁にある無数のおちんちんに触るとアイテムが出てきて、それを用いて部屋からの脱出を試みる。ここから出たけりゃあ、奉仕しろってわけかい。
このスウィートルームは、まさしく松本人志ひとりのセンスで作り上げた俺世界。でも、そこで苦しみ試され憔悴する男を演じるのも松本自身。この倒錯したマゾヒズム。メンヘラな遊戯的自傷行為によるリビドーの解消。これが、松本ワールドの真骨頂。
彼の中にある攻撃的な男性性と、感度が高すぎてマゾヒスティックですらある共感性。自分のセンスを信じて、コント内の世界観をすべてコントロールしたいけど、そのなかで自分はなにしてんねんと頭を小突かれるボケ役のままでいたい。誰にも理解されないようなユニークなセンスに価値を見いだすけれど、世間からは正しく評価されていたい。
お笑いエリート主義のクリエイター気質であり、同時にお茶の間に笑いを届けるおもしろおじさんでもある。相克する性質の両天秤の揺らぎが、タレント松本人志の持つ危ういほどの魅力だったのだなあ、と。
こちらが好意的に汲み取ってあげて、ようやく意味を持つ映画なので、お熱いうちにどうぞ。野暮で下世話になりすぎるのが僕の悪い癖。それじゃあ、出直すとすっか!スピードワゴンはクールに去るぜ。