ヨーク

天使の影のヨークのレビュー・感想・評価

天使の影(1976年製作の映画)
3.8
ファスビンダー特集の三本目です。
ただ、ファスビンダー三本目とは言っても本作『天使の影』はファスビンダーの監督作ではなくて、監督を務めたのはダニエル・シュミットである。ダニエル・シュミット…ダニエル・シュミットかぁ…という感じである。いやダニエル・シュミット作品は『書かれた顔』しか観たことはないのだが何かイメージでね、イメージでファスビンダーとの食い合わせはどうなのだろうかと思っていたわけだ。
いやだってファスビンダー作品もまだ二本しか観ていないけどさ、なんか明け透けな作品を撮るという印象だったんですよ。んでダニエル・シュミットはモロにアート寄りな映像を撮る人でしょ? それはミスマッチだろうと思うのだが、いやしかしミスマッチの妙というのもあるからな…という期待も持ちながら観たのだが、割と予想通りな感じの映画でしたね。あと、きっと寝るだろうと思ってたけどそれも予想通りに寝た。多分4分の1は寝た。でも全然つまんない作品というわけではなかったですけどね。面白いは面白かったよ。
お話は多分ドイツのそこそこくらいの都市で娼婦をしている女が主人公。彼女はあまり人気がないみたいでいつも売れ残って全然稼げていない上に、家には彼女の少ない稼ぎを全部ギャンブルに突っ込むような典型的なヒモ男(たしかファスビンダー自身が演じてたはず)がいるという設定。そんな彼女がある日ユダヤ人金持ちに見初められて…というお話です。
元々はファスビンダーが書いた戯曲らしくてそれを舞台芸術大好きなシュミットが映画化、ということなんだけど、ざっと見たところ他の人の感想でもよく触れられているのが、映画というよりも演劇的なアプローチの作品であるということで、そこは俺もそう思いましたね。映画内で演劇的な試みをやってしまおうというコンセプトの作品は他にもあるが、本作もそういうところは大いにあって上記したようにファスビンダー作品とのマッチはイマイチなんじゃないだろうかと思ったわけだがやはり奇跡的な化学反応が起こったとは言い難いと思う。ただ、ファスビンダーの物語をシュミットが撮ったらまぁこんな感じになるよなぁ、という意味では予想通りというか観たかったものが観れたという気もするのでそういう意味では面白い映画ではありましたね。
ただ眠い。眠いよこの映画! バシッと決まった映像の数々はマジで格好いいんだけどお話の山とか谷とかは全然ないからね。う~ん、一作しか観てないけどシュミット先生のイメージ通りの作品ですなぁ、という感じだよ。もうちょいファスビンダーみたいに振れ幅の大きい物語の見せ方をしてもいいんじゃないかなぁと思ったのだが、でもそれだったらファスビンダー本人が撮ればいいわけで、わざわざシュミットに撮ってもらうというのならばやっぱこれで正解だとも言えるかもしれない。この全編に溢れる爛れたままで腐り落ちていく果実のような雰囲気は多分ファスビンダーでは撮れなかったであろう。ただ、繰り返しになるが眠いけどな!
そんなわけで物語としての盛り上がりとかは全然ないですけどアート系の映画として観れば中々面白いものではありました。流石にというか一つ一つのショットはめちゃくちゃキマっていて映像としては本当に格好いいものばかりでしたね。あとファスビンダー演じるヒモ男がなんかいい感じのダメ男な佇まいですごく良かったよ。そこも面白かったです。
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