140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ザ・プレデターの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ザ・プレデター(2018年製作の映画)
3.7
【コンプレックス】

初代プレデターで最初の犠牲者であるホーキンスが監督として2018年現在のプレデターをアップデートした。

シェーン・ブラック監督らしい、ボンクラな仲間と下品で上品なセリフ回しで、あの頃の日曜洋画劇場のノスタルジーへと誘ってくれる。

ストーリーの粗雑さと豪快さ、レイティングのリミットを一段階外したからこそできるプレデターによる人体破壊の反倫理的な快楽。荒れるキャラクターに亀裂のある脚本がプレデターというコンテンツの株価を下げようと、高鳴る気持ちは覚えているということだ。

それ以上に本作はまさに現在におけるプレデターである。遺伝子や進化というオカルトイズムではなく、米国のコンプレックスとしてのプレデターである。

初代プレデターは熱帯の密林を舞台に、米国の特殊部隊がゲリラ戦術によって最新鋭の武器をもろともしない恐怖により散っていく様が描かれる。作品の絶妙なシーソーゲームによりローテクが勝るますらをぶりが勝負を決するわけだが、私はこれはベトナム戦争に散ったアメリカという超大国の憂いなのではないか思っている。

そしてイキり国家アメリカはベトナムに続きまたしても兵士を傷つけた戦争を行った。2003年のイラク戦争である。ベトナムでは米国兵士は肉体を破壊されたが、イラク戦争後に表だって聞かされるのは兵士のPTSD。つまり米国兵士の心を壊した戦争だった。本作で護送バスに乗り合わせたボンクラ軍人はまさにイラク戦争のコンプレックスであり、そして本作はその名もなきコンプレックスの残骸をプレデターと闘った戦士として名誉の埋葬をする映画だったのではないかと思う。決してそれがメインストリームになるわけではないが、キーパーソンとなる主人公の息子は発達障害であり世間から見ればコンプレックス持ち。彼らが米国の闇を体現し、躍動し未来を担うという独立愚連隊讃歌の構図であったことはとにかく嬉しく、サービスシーンのような男の友情も気持ちがよかった。

すべてが順風満帆に進んだわけではないのは事実で、クライマックスバトルの勝利のロジックは伝導率は低く、キャラの死に様に偏りがあったのは否めない。

ただ楽しい!グロい!のプレデターではないのは、明確だったし、ラストの展開のぶっ飛ばし方も可愛らしい。

プレデターに立ち向かう戦士はコンプレックスの先を見つめていてほしい者たちである感動は飲み込んだ。