垂直落下式サミング

闇の子供たちの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

闇の子供たち(2008年製作の映画)
2.9
阪本順次監督が東南アジアに蔓延る子供の臓器売買と幼児売春を描いた問題作。東南アジアの貧しい家では子供が売春宿に売り飛ばされてしまうことがあるという話は知っていたが、エイズで弱った子供はゴミ袋に入れられて捨てられるとか、麻酔もなしに生きたまま臓器を抉りとられるだとか…かなりショッキングな内容。と言うのも、原作本は取材の元に書かれた創作ということで、実際にどれだけの事実が担保されているのかは疑わしい。
にしても、この題材にして子供が傷つけられるシーンを意図的に描かないのは失敗だ。原作本では子供への性虐待の描写が詳細に生々しく記されているのだから、その場面をそのまま絵にするだけでみるものに訴えかける力のある映像になったはずだ。世界にこんな現実があるのだと訴えかけるルポルタージュ作品として明らかにパワーダウンしているし、映像化にあたってのブラッシュアップも弱いと感じた。
そのため、事件を追うボランティアや日本人記者たちがどうしようもなく無責任で手前勝手な綺麗事を言っているように見えてきてしまう。特に宮崎あおいが熱演するNPO法人の女性職員に本当にイライラさせられた。彼女が臓器移植手術を受ける日本人の子供の両親に「お子さんの手術をやめてください」「タイの子供たちが可哀想です」と無神経に言い放つシーンは、ようやくドナーを見つけた子供の両親にそんなことよく言えるなぁと、彼女の人間性を疑ってしまう。この女が口を開くシーンはまぁ不快だ。独善的だろうと綺麗事だろうと彼女なりの信念を持って発した言葉なのだろうが、こういったヒロイズムに酔った人間への俯瞰した視点は物語内で特に語られないため歯切れが悪く感じた。
日本人記者やNGO法人側の視点が主で、地元タイで直接人身売買に関わっている人間たちの生活は深く描かれない。観客に多面的な視点で問題提起をすることが目的ならば、日本人たち加害者側の葛藤だけを追った作りは失敗だろう。人身売買を生業としている人はどんな人間なのか?子供を売った家族はその後どうなったのか?国外で未成年を買う人とはどんな人間なのか?という深堀りをしてほしいのに、この映画は彼らの行為を「悪いこと」「許しがたいこと」だとし切り捨ててしまう。
確かに人身売買組織や彼等から子供を買う幼児性愛者は社会的悪だというのは間違いない。人道・道徳に反する行為だろう。この物語に登場する人達のように、人身売買を根絶するため巨大な闇に立ち向かうのは高潔な行いだ。しかし、実際には生活のために嫌々人身売買組織で働いている木っ端ヤクザもいるだろうし、両親が兄弟を売ったおかげで学校に通えた子供もいるはずだ。彼等が貧困から抜け出す手段がそれしかないのだとしたら、安心安全な国でのうのうと生きている我々が彼等を責める権利などあろうはずもない。
社会派劇映画として視野が狭いし、意味深なシーンや内容のショッキングさから煙に巻かれそうになるけどメッセージも正直言って青臭い。これなら最初から最後まで分かりやすい勧善懲悪でもよかったのではないか。
金を出して買う人がいて、金で買われる人がいる。誰かが損をすることで、救われる誰かがいる。いったい誰を責めればいいのだろう。自分の子供を売る親か?子供たちを売り物にする暴力団か?子供の身体を貪る彼らの客たちか?事実に関して我々はあまりに無知で無力だ。
意欲作であることは間違いないのだけど、それでも、この映画のように加害者側に問題があるのだと、物語のなかで明確な悪者を設定されてしまうと、どうにもフェアじゃない気がする。
題材のセンセーショナルさだけが浮いていて、普通につまんないだけの映画になってしまっているのが惜しい。