イチロヲ

悲惨物語のイチロヲのレビュー・感想・評価

悲惨物語(1973年製作の映画)
5.0
裕福層の父子家庭に暮らしている少女が、敬愛する父との主従関係に心酔しながら、猟奇殺人を繰り広げていく。マルキ・ド・サドの同名小説を原作に取っている、エロティック・ドラマ。

「真の快楽は反道徳的行為にある」「主となる者も隷属者に隷属している」という、倒錯的サドマゾ構造をシンプルに織り込んでいる作品。トラッシュ系の低予算見世物映画ではなく、至極真っ当な劇映画として完成されている。

憔悴しきっている娘への単独インタビューから、フラッシュバックさせていく語り口が面白い。新境地を切り開いた父娘の色めき立った感情だとか、あらゆる場所で体育座りする娘の癖だとか、ヒッピー調の服飾デザインだとか、見どころは枚挙に暇がない。

父娘の関係を超越した次元を描きながら、「隷属の歓び」をリリカルに説いていくスタイルが、絶妙そのもの。「隷属者が自分から離れること=アイデンティティの喪失」を着地点とするラストに、敗北の美学と新たな旅立ちを痛感させられる。
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