垂直落下式サミング

ハウスシャークの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ハウスシャーク(2017年製作の映画)
4.0
おうち時間を襲うデバガメなサメ。その名もハウスシャーク!サメ映画なのに海はなく、いきなり青々とした草っぱらの映像からはじまるから、すぐに諦めがつく親切設計。
最初の犠牲者となるシッターのお姉さんは、臍だしフリルドレスみたいなお洋服が死ぬほどえっちい目の保養要因。普段からこんな服着てんのは、バイオのエイダくらいじゃないかしら?
フリフリな普段着のイタい女なのかと思ったら、メルヴィルの白鯨を読むインテリお嬢さんでいらして、ぶ厚い文芸を読破しお手洗いに立ち、なぜか下も上も脱いで全裸で大便器に座るのだけど、唐突なサービスシーンのあとで生理っ屁をこいて、何者かにケツを噛まれる。
悲鳴を聞いた家の人たちが助けにやって来ると、血だらけの彼女はトイレのなかに引きずり込まれ、肉片の散らばる大便器の血の海の中から、ゴポゴポッと立ち上がるのはこちらに狙いを定めたサメの背鰭ッ!我が家に、サメがいる!ハウスシャークだーっ!すごいよな。ここまで底が抜けてんのは…。
鑑賞する際、本作を楽しめるかどうかは、前半10分で「家にサメがいることを登場人物たちは確信している」という不条理な前提を、なんとか呑み込むことが出来るかどうかがカギとなる。そこさえ乗り越えてしまえば、テンポを損なわずサクサク犠牲者が出るからみていて飽きないなあと、凪にたゆたう水面のごとく広く澄んだ心の余裕を獲得することができる。
中盤からは、ハウスシャーク駆除のため集結する妙にキャラの立った専門家たちの楽しさで、なんとか持ちこたえている。お気に入りは、不動産会社が手配したアル中で付け髭のエイブラハム!もう、やめなーっ。雑にパロるな。元ネタはエイハブだから、じゃあエイブラハムなリンカーンにしーちゃおとか、深夜に半笑いで考えたんだろうけど、ヘタすると宗教的な意味を持ってしまうので、ちょっとアブナイっすよ。そこまで、真面目にみるヤツはいないだろうけど…。
ネイティブアメリカンの古い伝承のなかにも、ハウスシャークの伝承があるとか言い出したあたりで、さすがの僕も我慢の限界になった。昔サメはバッファローと同様、陸の生物だったのだ。ウソつけーッ!いい加減にしろッ!
でも、ひとつ大いに褒めたいのは、終盤の水中アクション風シークエンス。唐突に家が水没してしまったため、登場人物たちが水のなかで戦うことになる。だけど、当然こんな映画に原寸大のセットを沈めて水中撮影する予算なんてないだろうから、どうやるんだろうと思ってみていたら、映像の加工や照明などを駆使して、かなりそれっぽくみせようと頑張っていた。
台所みたいなところで、役者たちが息を止めてる風の顔をして、水の浮力と抵抗を感じさせるようなゆっくり動くのろのろアクション。そこにさらに編集処理でスローモーションを加えてから、気泡や懐中電灯の光の屈折などの特殊効果のレイヤーを重ねることで、水中撮影っぽさを表現。すごーい!
イチバン感心したのは、主人公の手から離れた拳銃や鉄パイプが、ホントに水のなかで落としたときのように、ゆらゆら~っと沈んでいくところ。えっ!?今のどうやって撮ったんだろう?と思って巻き戻してみたら、糸で吊ってあるのがみえて大笑いしてしまった。目からウロコのアイディア賞。
低予算映画の涙ぐましい工夫とかに興味ある人は、ここだけでも観るべき!それまでのすべてを許せるくらい超笑えるからっ!