Jeffrey

曽根崎心中のJeffreyのレビュー・感想・評価

曽根崎心中(1978年製作の映画)
4.5
‪「曽根崎心中」‬

‪冒頭、元禄一六年、大阪。仏像の積み重ねショット、二人の男女。七つの鐘。天満屋、女郎、二本の松の木、印判、衆人監視。今、見事心中を遂げる二人の非恋劇が幕開けた…本作は行動社、木村プロ、ATG配給による近松門左衛門による相愛の若い男女の心中の物語を音楽、大地の子守唄に続いて昭和五十三年に監督した増村保造の大傑作で、私が厳選したATG映画十本に本作を挙げている。本作は近松門左衛門原作の同題名小説を増村保造がATGで監督した一九七八年の作品で、ギルド作品の中でもダントツに好きな一本であり、主演の梶芽衣子と宇崎竜童の駆け引きが非常に印象的である。曽根崎心中と言えば近松門左衛門が五十一歳の時の作品で、彼が初めて描いた心中物であり、世話浄瑠璃である。

これは元禄十六年だから西暦で言うと一七〇三年かな、その五月に大阪竹本座で初演されて空前のあたりを取ったと言われている。その前月に曽根崎の天神の森で、内本町の醤油屋の手代徳兵衛が、北の新地天満屋抱えての遊女お初と心中する事件があったそうだ。このような事件を近松は手際よく浄瑠璃に仕込んだのである。記憶があやふやだが、確か劇中の油屋九平次だけは作者の創作した人物だったと思う。世間で評判になっていた事件を早速劇化したキワモノがヒットしたー番の理由であるのは言うまでもない。

正直近松の作品を映画化したこの作品は非常に忠実に浄瑠璃、あるいはこの歌舞伎の舞台をなぞっていて非常に良いと思う。どことなく評判が真っ二つに割れるのは多分きっと作品研究をしていない人たちなのではないかと勝手ながらに思う。特に宇崎竜童の芝居が最悪と言う人もいるが、あれはあれで良いのである。ー点を見つめた梶芽衣子のお芝居もあれで良いのである。なんだろう、心中にまで追い詰められるのは、全て義理のしがらみに絡み取られ、人情に流されて、そうなっていくパターンから成り立っているのが近松の心中物であり、全部で十一篇ある。そもそもちょんまげの世界の出来事が面白く、行動が直線的である女子(おなご)も印象的だ。

それにシーン数は多くないが、カット数が多くてそのシーンは短いが確実なショットでつないでいったり、増村の演出の意図に沿ってパンや移動さえ手控えているのが良い。それから普段は舞台ではサングラスをしている宇崎竜童が素直に顔出しているのも面白い。この映画はリズムの流れが非常に良い。私が知る限り、近松門左衛門の作品を映画化した戦後の話題作には、誰もが知っている溝口健二の「近松物語」があり、今井正の「夜の鼓」内田吐夢の「浪花の恋の物語」それから同じくATGの篠田正浩の「心中天網島」は見て損はないと思う。そしてこの「曽根崎心中」であるが、クライマックスで梶芽衣子演じる女が言うセリフが非常に印象的で、ここに引用すると、どうせ死ぬなら、見事に果てて、死に様の手本になりましょう。

二人一緒に見事に死んで、恋の手本になることじゃ…とあるのだが、これを聞くと、恋に殉じる心中美学への憧れを感じ、激しい恋愛の究極は、死であることがわかってくる。というか、女の情念的発想ではないのだろうかと思う位である。恋ははかなく、人の情熱には限りがあるといった、心中には甘美で誘惑的で陶酔の響きがあると南俊子氏も言っていたような気がする。余談だが、中島みゆきの楽曲の中に新曽根崎心中と言う曲名がある。これまた素晴らしい曲である。



本作は従来からある恋の行手を阻む壁(世間体や周囲を気にするあまり)にぶつかるんだが、梶と宇崎扮する二人はそんなの知った事かと言わんばかりに突き進む。物事をはっきり主張するタイプがこれには表れてる。それは力強く、タフで誰にも止められない…まず、タイトルバックに流れる音楽のカッコ良さ、そこから死体(心中)の描写と言う…なんともまぁ〜凄い映画よ。宇崎竜童は最高だな。まず欲深い母に律儀な息子の一場面は強烈。銀二貫が齎す御袋殿との勘当を見せ付けられる。徳兵衛が信じていた友達に銀二貫を貸すも、企まれて返却されず、袋叩きにされる場面も胸くそ悪く、強請り集り罵られる徳兵衛が何とも可哀想に…やり切れない。

この映画、着物のスペックを確認できる。にしても女郎屋での九平次とお初の対話劇は凄じくあっぱれ。梶芽衣子の涙の気迫芝居と台詞がもう完璧。対するは橋本 功の憎たらしい悪党ぶりは脳裏に焼き付く。心中は日本文化特有のものだとは知っているが、言わば恋の手本的な美学があるのかも知れない。終盤の梶の胸が曝け出す場面と南無阿弥陀仏し、自決する夜森のシーンは涙する。
極楽へ行く為に、生恥をさらさない為に…深く考えさせられる。最後、黄金に光輝する仏像と二人の死顔の交互ショットは余韻を残し、積極的に意思を持って心中する二人の血塗られた非恋の葛藤は本当苦しくなる。エンディング曲のダウン・タウン・ブギウギ・バンドの宇崎竜童の歌が切ない。

さて、物語は大阪を舞台に徳兵衛が仕事ぶりを買われ、亭主の平野屋久右衛門に嫁入話を持ちかけられるも、妻とともに店を経営してくれと言われるも、それを断り久右衛門の逆鱗に触れ、追い出される。兼ねてから遊女のお初と恋中にいた。
そんな中、徳平衛が友達の九平次に銀二貫を渡す。それを返さないと言う事になり二人は揉め始める。そこから物語は急展開に移行する…とこんな感じで風建的なしがらみを描いたこれぞ日本古典文学を見事に再現した一本で、再鑑しても尚、傑作度合いは変わらず、いや寧ろ増している感がある。此こそ非恋に満ちた傑作…見事あっぱれ。本作に対してクドイと思ったら既に本作を観るにあたえしない人だ。梶の目力や着物からの素足、積極的な行動性を垣間見れた大好きな映画だ。お勧めだ…‬
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