りょう

ジュリアンのりょうのレビュー・感想・評価

ジュリアン(2017年製作の映画)
4.4
 この作品を4年前くらいに観たときは、日本で共同親権なんてあり得ないと思っていましたが、すでに民法改正案が衆議院で可決されてしまいました。法制審議会の全会一致の慣例や有力な反対意見も無視して…。
 あらためて観てみると、DVで夫婦関係が破綻した男女が共同で親権を行使するなんて、およそ現実的なことではありません。当事者が共同親権に不同意でも裁判所が命令できる仕組みですが、裁判所は客観的な証拠でしか判断できないので、DVのおそれが明白でなく、元夫に安定的な収入などがあれば、実務的に共同親権を決定してしまいかねません。この民法改正案にはさまざまな欠陥や弊害が指摘されています。少し長くなるので割愛しますが、離婚では母親の単独親権となりがちなところ、男性が女性に権利を奪われることがイヤなだけでしかありません。まともに監護・養育するつもりもないのに、いかにも家父長的な政党の男性たちが発想しそうなことです。
 この作品のテーマは、ポスタービジュアルのジュリアンの表情がすべてを物語っています。時折みせる笑顔がかわいい11歳の少年ですが、父親と2人きりの場面では、「これって演技なの?」って思えるくらいのリアルな嫌悪感を表現しています。父親に怒鳴られるシーンの反応とか、子役さんに精神的なダメージがなかったか心配になるくらいです。エンドロールも含めて劇伴がなく、この家族を中心に淡々と描いていますが、何気にカメラワークが巧妙で、ハンパない臨場感です。それがとてつもないネガティブな雰囲気なので、ずっと息苦しく、短尺と思える93分でほぼ限界です。ヒューマンドラマのフォーマットでありながら、実際にはサイコスリラーでしかありません。病的で発狂・暴走する父親たるや…エゴとマチズモが全開です。
 少しドキュメンタリータッチでありながら、緻密な脚本と演出で、終盤の展開での極限の緊張感とか、しっかりとエンタメの要素もあります。なぜか過少評価されていますが、いまの日本でこそ観るべき秀作です。
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