垂直落下式サミング

斬、の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
3.7
迫り来る時代の変革に揺れる江戸末期の日本。若き浪人は、農村で穏やかに暮らしていたが、剣の達人との出会うことにより、人を斬ることへの葛藤を抱えたまま、暴力の連鎖に巻き込まれてしまう…。
塚本晋也が、最初に出てくるところの果たし合いのシーンがとても良かった。相手を見据えながら後ずさりする背中が木の陰から出てきたと思ったら、続けてフレームインする相手の侍の風貌が思ったより手練れっぽくて、あらお強そう大丈夫かしらと息を呑むと、今度は塚本の背中が後ろの大木の陰に隠れて、そのタイミングで相手が抜刀して中段に構えてにじりよる。そして、先ほど隠れた木の陰から、再度フレームインする塚本晋也。ここにおいても、いまだ塚本は刀を抜いていない。ゾワッ…どうなる!?
ドキドキする命のやり取りの見せ方がうまかった。ここは、血がブシュ!首スパンっ!花の一刀両断である!みたいなのじゃなくて、勝負の決着が呆気ないのもいい。剣道なら小手打ちは一本だけれど、実戦での指取りはほんとうに命をとられてしまうことを意味する。
剣術とは、刀剣によって相手の肉体を損傷させ、行動不能にする技術のこと。竹刀や木刀ではなく鉄製の刃物が前提であるがゆえ、身も蓋もなくエゲつなく、当たり前にグロテスク。演舞のような息のあった技など、存在するはずもなく…。
都築と市助が木刀で模擬戦の稽古をするところは、映像の切り替わりが忙しない。実際の斬り合うということがわかっていない二人の未熟な能天気さの表現なのだろうが、手持ちカメラでばたばたアクションを追うから、なんか見づらくて嫌だった。落ち着いて撮ってくれりゃあいいのに。役者さんたちも、殺陣の経験が豊富な人ばかりじゃないから、誤魔化さなきゃいけないのかしら。
役者はみな巧演していると思うが、ところどころ、決めセリフの力みが有り余っているのも気になった。蒼井優が慟哭しながら侍たちに向ける言葉とか、池松壮亮が人を斬れるようになりたいと連呼するところとか、ここは、ちょっとなぁ…。
邦画のインデペンデント作品特有の恥ずかしい過剰演技。蓄積された感情の爆発という意味では必然のある感情表現なんだけれど、ずっとボソボソなのに急にハキハキするから全体として浮いてしまっている。一言でボソッと済ますだけでも、映画は人の本音に迫れるはずだ。