結局カレー

殺さない彼と死なない彼女の結局カレーのレビュー・感想・評価

殺さない彼と死なない彼女(2019年製作の映画)
3.7
Twitterでみてた世紀末さんの漫画の実写化。可愛らしいタッチの4コマ漫画ながら若者の心の肌恋しさみたいなものを絶妙に切り抜く作風が好きでよく読んでたな。実写映画化って聞いたときは何をどうすんねん??って思ってたけど、始まってすぐこれ以上ない良いかたちで映画になったんだなと思える空気感が流れてた。

「死にたい。」と泣く彼女に「死ね。」という彼。本当に心が落ちてるときの「やめたい」「自分なんかダメだ」みたいな否定の感情って普通はそれ自体を否定してあげるじゃん。「そんなことないよ」ってみんな綺麗な言葉で引き止めるもの。でもそれもある意味自分の素直な心を突っぱねる壁になり得て、いくらその正体が優しさであっても、このマイナスな感情に蓋をさせられると自分の中で孤独が育ってしまうのよね。
「死にたい」に「死ね」と返す優しさ、そのホントは「殺さない」し「死なせない」。この一見乱暴に見える会話は紛れもなく互いの存在の肯定であり、死にたいを死ねで返すことは確かに優しさでもあり、そんな意味不明な理屈が成立することを見せてくれて私までなんか受け入れられた気がした。「俺はお前が死んだら変わるよ」ってセリフ、なにも誇張してない絶対的な事実であり、人の心の隙間を埋め尽くす素敵な言葉だと思った。優しいわ。

「あなた以外の誰かと幸せになるくらいだったら、あなたのそばで不幸になりたいわ。」
「彼にはずっとずっと好きなままでいてほしかったのよ。好きだったのよ。」
「幸せな夢なんか見たくなかったのよ。夢から覚めたとき現実を不幸だと勘違いしてしまうわ。」
あぁこの幸せに対する恐怖心が滲む詩的なセリフたち、すごく胸に残る。キャピ子にとってのヒーロー地味子も八千代くんへ揺らがない想いを寄せる撫子ちゃんも湯水のように流れ出る愛情を絶やさない、こんな深い愛あるのかよって感じだったな。包容力のある、一見冷たそうですっごく温かい映画だった。