KnightsofOdessa

Kinetta(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Kinetta(原題)(2005年製作の映画)
3.5
[オフシーズンのリゾート地で繰り広げられるオフビートな地獄譚] 70点

男と女とカメラマン。次の展開の指示を出すカメラマンと、それに従って演技をする男女を終始不安定に揺れ続けるカメラが一画面に収める。その指示は実に暴力的なもので、逃げる女を男が追いかけて突き飛ばしたり、女に殴られた男が女を殴り返したりという実にランティモスっぽい主題を含んでいる。明白なストーリーもない映画の中で、文字通り無意味に振るわれる女への暴力。一応殺人事件の再現Vを作っており、男は刑事、女はホテル従業員、カメラマンは近くのカメラ店店員らしい。男はBMWへの異常な執着を見せ(見栄を張ること、権力の誇示)、女は完璧な犠牲者を演じるべく傷や痣が増えていき(男への従属と代償)、その間を往来するカメラマンは男に従いつつ女に惚れていく。死んだように退屈で静かなオフシーズンのリゾート地で繰り広げられるオフビートな地獄譚である。

同時に、彼らの時間を切り抜くカメラは終始不安定にまるでドキュメンタリー映画でも観ているかのように揺れ続ける。そして、それは再現Vを撮っているときも生活しているときも同じように撮影を続ける。現実世界と虚構世界が陸続きであり、現実世界で生きることと虚構世界で演じることが等価であると言いたいのだろうか。逆に演じることのないカメラマンですら現実世界での行動がどこかぎこちなく、改めて我々と映画の間に一つの壁があることを認識させる。人生とは自分を演じることであるとしながら、どこか線を引いて達観しているような感じを覚えるのだ。流石は奇妙な波の創設者、その奇っ怪さという点において、デビュー作からバキバキにキマってる。

三人の関係性は徹頭徹尾変化しない。そしてそのまま、やがて来たるバカンスシーズンを予期させながら映画は終わってしまう。セレブレニコフも似たような映画を撮っていた気がするので確認せねばならんなと思ったのが、一番最初に出てきた感想だった。

→その作品です
キリル・セレブレニコフ『Playing the Victim』怠惰なハムレットは犠牲者か加害者か
https://note.com/knightofodessa/n/n5d3c5b015d2f
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