みなりんすきー

僕と頭の中の落書きたちのみなりんすきーのレビュー・感想・評価

僕と頭の中の落書きたち(2020年製作の映画)
3.9
『僕の最大の失敗は間違いなく──愛する人々から隠れたこと』

『気分いい? 荒れた界隈の狭い家で貧乏人に料理して! まさに聖人ね』

『なあ 僕には声が聞こえるし本当はないものが見える 薬も万能じゃないし君を巻き込めない』

『罪の告白とは 自分に欠点があると認めることだ 自分の欠点を認めることで──その欠点に向き合う機会と強さが与えられる だから告解するんだ』


️📝 あらすじ 📕
高校最後の年に統合失調症と診断されたアダム。母は諦めずに様々な治療を受けさせたがどれも上手くいかず、アダムはもう普通の人生を送ることはできないと半ば諦めかけていたが、シェフになるという夢だけは捨てずにいた。
転校先の学校で知り合った優等生・マヤとひょんな事から親しくなっていく中で、アダムは少しずつ自分の中で何かが変わりつつあることを自覚し始めるが、病気のことは打ち明けられず…


🧸‪ 感想 🤎
『僕と頭の中の落書きたち』
(『🎬Words on Bathroom Walls』)

え、これすっごく良かった。
内容はまぁあらすじ見れば何となく予想ついちゃうし結末だってまぁそうだろうなっていう
普通に王道っちゃ王道の展開なんだけれど、
それを分かっていてもなお、心にジンとくるヒューマンドラマだった。

統合失調症って今じゃもう珍しくないというかよく聞くようになったけれど、きちんと病名が定まっていなかったり世間に認知されていない時代なんかは今よりずっと好奇の目に晒されただろうし、より精神的に追い詰められてしまったんじゃないかなと思ってしまう。
少し調べたところ、昔は”精神的分裂病”と言われていて2002年に”統合失調症”に呼称を変更。未だに明確な原因は不明だが、仕事や人間関係のストレス、就職や結婚など人生の転機で感じる緊張などがきっかけとなり発症するのではないかと考えられているそう。
そう聞くと、現代のストレス社会ではいつ誰が発症してもおかしくないよなぁと。なんなら明日は我が身か…というレベル。全く他人事ではないのだと再認識させられました。
実際知り合いに統合失調症の人がいるわけではないのでリアルなところは分からないのですが、実際こういう症状が起きるんだとしたら小並感で申し訳ないがそりゃもう大変。幻覚幻聴だけでも生活がままならないのに、薬の副作用もエグい😵‍💫
この手の作品を観る度に痛感しますが、こういった苦労のない健康的な体に産んでくれた親には本当に感謝してもし切れないというか……健康ってかけがえのないものなんだなぁと。

今作でアダムが見る幻覚は、登場人物が決まっているのか面白かった。すぐ排除しようとする屈強な用心棒がいたり、イケイケGOな色男がいたり。そのキャラ立ちが良いので、消したい幻覚であることは間違いないんだけれど、見ていて不快じゃないというか、これが幻覚じゃなくて実在する友達だったらいいのになぁと思うような良いヤツらなんだよね。タイトルでいう”落書きたち”という表現がとても好き。病気のせいではあるんだけれど、その中でも少しだけ前向きというか。喧騒、雑音というよりは、アダムがちょっと悪戯心で落書きしているみたいな世界。決して何もかも絶望的で悲観しているわけじゃないよっていう。この作品のほんの少しのポジティブさというか、未来に希望を持っている感じが好きでした。

最初はアダムと同じで義父に良いイメージを持っていなかったんだけど、まさかの事実で泣かされた。この映画で唯一泣いたシーンがまさかのそこでした。あれはズルいよ……😿
きっと観ていた私もアダムと同じで、”愛する人々から隠れていた”んだろうなぁ。だからその人の愛に、温かさに気付くこともできない。はじめからこんな自分を受け入れてくれるわけが、愛してくれるわけがないと自らシャットアウトしてしまっているから。
けれどその狭窄された視野をそっと広げてくれたのが、マヤであり、諦めなかった母親や義父の愛情だったんだろうな。
あと忘れてはいけない神父さん。めちゃくちゃいい人でユーモアもあって、短い時間の中でも間違いなく彼の心の支えになってくれた人。
「神様に僕の運命を考え直させてよ ツイてないんだ」の皮肉に対して「電話しておく」の返しとか最高でしたꉂ😂😂

何か急展開があるわけでも、ハラハラドキドキのシーンがあるわけでもない、
彼の青春の1ページをゆっくり眺めるような静かな物語ではあるけれど、
ああ、明日からも明るく楽しく生きていこう、と思えるような、そんな素敵な映画でした。