ヨーク

アル中女の肖像のヨークのレビュー・感想・評価

アル中女の肖像(1979年製作の映画)
4.0
ウルリケ・オッティンガー特集で観たのだが、いやこれは久々にぶっ飛んだ映画を観たなということで非常に面白かった。ちなみにウルリケ・オッティンガーは初です。他にどんな映画を撮っているのか知らんからオッティンガー初体験がこの『アル中女の肖像』でよかったのかしらとちょっと不安になってしまう。
どういう映画なのかというとですね、アバンギャルドなアート作品とでも言うのが一番伝わるのだろうか。まぁ多くの人が映画と聞いて連想するような娯楽性の高い起承転結でメリハリのある物語があって、そこに社会批判や作り手のメッセージやそこまで大層なことではなくてもちょっとした教訓があったりなんていう要素はほぼない。いやまぁ娯楽性も社会批判も作り手のメッセージも全部本作にはあるけど、あるんだけどその表出の仕方が一般的な映画作品と比べて些か尖り過ぎだろう! というのが本作『アル中女の肖像』なのである。
あらすじ…あらすじねぇ…。そんなもん無いと断言してしまってもいいのだが、一応内容を書いておくとマダムと呼ばれる若くて金は持ってそうな女がベルリンへ行って酒を飲む。もうずっと飲んでる。バーやレストランではもちろん、路上でも階段の踊り場でも船の上でもゴミ捨て場でもどこででも酒を飲んでいる。色んなとこで色んな人と出会って飲む。それだけの映画ですね。
普通、物語というものは主人公の目的が明示されてそれを達成することができるかどうかということが重要とされてそこに山や谷といった起伏を加えることで客の耳目を引くものであるのだが、本作にはそういった目標のようなものはない。それどころか台詞すらほとんどない。主人公たるマダムはただひたすら酒を飲んで、ごくたまに言葉を発したり歌ったりするだけなのだ。ま、前衛的なアート作品ですからね、そこに明確なテーマや裏側にあるメッセージなんかはあるのだろうがそれを明示はしないわけですよ。
でもそれが面白かったなー。予告編でも分かるようにまず目を引く奇天烈な衣装とかパントマイム的な役者たちの動きとか、そういうのは最初こそ度肝を抜かれるのだけど、ずっと観ていくと様々な部分に意図は感じることができる。なので別に狂ってるような映画ではないんだけど、そのビジュアルのヤバイくらいの面白さというのは凄い。こればっかりは実際に観てもらわないと分からないと思うが、ファッションショーに出てくるようなコンセプトデザインの服をそのまんま着てベルリンの街中で普通に酒飲んでるんだよ。しかも主人公はグラスを空けるたんびにそこら辺の路上とか壁にグラスを投げて割っちゃうの。ちょっと四万十川料理学校のキャシイ塚本を思い出すような振る舞いをするんですよ。しかも途中でなんかべろべろに酔っ払った主人公が飲みながら色んなお仕事に挑戦するミニコントみたいなのが始まって、もう完全に笑わせに来てるだろうとしか思えない。
でも映画のトーンとしては物語というものがないから、従って山も谷もなくただ淡々とそのシーンを映すので笑わせに来ているというのもイマイチ確信が持てなくて、笑わせに来てる…んだろ…? くらいの気持ちがずっと続くんですよね。基本的に刹那的で破滅的でその場限りのシーンばかりが続くので、まるでコントじゃんと思いながらも得体の知れない何かはずっと感じてしまうんですよ。それはきっと明確には説明していないけどジェンダー的な不平等だったり快楽や消費といったものの空虚さだったり、色々あるのだろうがしかし根本的にこの作品は前向きで陽気でパワフルだから何か観てて楽しいんだよな。
要所要所で出てくる三人組は説明的過ぎていらないかなぁ、と思いながらもキャラクターとしてはなんか好きな感じのウザさだったので割と好きです。素晴らしいドレスのデザインとメイクと音、あとユーモアとスタイリッシュさが同居したシュールなコントじみた雰囲気と唯一感のある映像を堪能できるのでそれだけでも楽しかったかな。ちなみに衣装の奇抜さは全編に於いて共通しているが、途中出てきたパンおじさんはもう爆笑しながら観てしまった。あんなん反則だろ、絶対笑うわ。
しかし女が一人で飲んでる姿ってのが寂しくも侘しくもなくて、終始スタイリッシュで格好良く観えるのは凄い。もっとグラス投げろ! 水を周囲にぶちまけろ! とか思いながら観てしまうもん。ちなみの俺は冒頭で10数分くらいウトウトしてしまって、しまった! やらかした! 分からなくなっちゃう! と思ったんだが、なんのこたないよ、ずっと起きて観てても分かんねぇよこの映画。でも何だよこれ…って思いながらも面白かったですね。面白かったし、好き。これは自宅でBGVとしてかけていなたいな…。
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