鷺宮テラス

ドライブ・マイ・カーの鷺宮テラスのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

愛する人たちと過酷な別れ方をした家福の悲しみはどれほど深かったのか。辛い。妻の死後初めて笑い心癒されたのがユンス邸に招かれた会食だったのかなって。


--孤独の色は身体に深く染み込んでいく。淡い色合いの絨毯にこぼした赤ワインの染みのように。その染みを落とすのはおそろしく困難な作業で時間と共に色は多少色褪せるかもしれないがその染みはあなたが息を引き取るまであくまで染みとして留まっていく。--"女のいない男たち"
西島秀俊さん演じる家福の顔には染みと日々格闘して生きなければならない覚悟と疲労が陰となって滲み出ていた。音の声のする赤い車はワインの染みようだった。


『25年ものあいだ』車中で何度も響く家福の言葉に彼の中の憤りが伝わってきて自分の心にあるカタのつかない葛藤までも激しく呼び起こされて息が詰まった。


--セックスをするときも音楽が流れていた。今でも僕はその曲を聴くと性的に昂揚する。息づかいが少し荒くなり、顔が火照る。--"女のいない男たち" 高槻はこれからもモーツァルトのロンド(ニ長調k485)を聴く度に昂揚するのだと思う。


この作品で流れたお経は理趣経(りしゅきょう)で娘の何回忌かの供養の時に真言宗が読む前奏部分
帰命毘廬遮那仏(みょーびーるしゃな〜※帰と仏は読まない)
無染(むーぜーん)
生生(しょーじょ〜)

『大日如来よ、何事にも染まる事なく生きてまた生きて(生まれ変わっても)。』テラス訳

染み、生きるをテーマとしたお経を選び理想ではあるけれど村上春樹の赤ワインの染みに対する回答のように感じて監督の知見の深さに魂が震えた。


していいことといけないことのルールに則って音はキスだけは夫としかしていないかもと鑑賞していると終盤ルールは破られるので彼女もしてしまったんだなと思ったけれども、メンテナンスを丁寧におこなって15年故障ゼロに出来るほどの車好きが運転を心から任せられる女性と出会いそれが仕事を介した人からの縁であったことが家福のこれからを照らしてくれているようで素晴らしかった。


再鑑賞の時の楽しみにしたいけれどコン・ユンスさん宅のお食事の時にもしワインを飲んでいたらそれはカリフォルニア州ナパのジンファンデルだったらいいなー。”木野”


久しぶりの映画館は本作にしてよかった。



=========
音の葬儀の際に読まれたのは理趣教の〆の箇所で本作で聴けるのは合わせてもほんの数秒であるのに前奏から終わりまで通しで聴いた気になれた。
爾時一切如来及持金剛菩薩摩訶薩等皆来集会 欲令此法不空無礙速成就故 咸共称賛金剛手言
鷺宮テラス

鷺宮テラス