ヨーク

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のヨークのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.6
『ゲゲゲの鬼太郎』は2023年現在で第6シーズンまでテレビアニメが作られているので超人気国民的アニメといっても過言ではないと思うし、大体10年に1シーズンくらいのペースで作られているので多くの日本人は「俺が見ていた鬼太郎」というものがあると思うのだが、まぁ俺が第何期をガキの頃にリアタイで見ていたのかは言わないでおこう…歳がバレるから…。
そんなことはどうでもいい。どうでもいいけど一応前置きとして書いておくと本作『⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎』は第6期の鬼太郎がベースとしてある作品である。ちなみに俺は全話見たしトータルではかなり面白かったと思う。プリキュア以外で4クール以上もあるテレビアニメを完走するのは結構珍しいことなのでハマっていたと言ってもいいくらいだったかもしれない。その6期は2018年から2020年まで放送されたシリーズでダウナーな鬼太郎のキャラ造形も含め、ややダークな雰囲気を前に出した作風であった。んで本作もその流れを汲んだ感じの作品なのである。
これがまた非常にウケているみたいなんですよね。まぁ俺の観測範囲というのはTwitterとフィルマークスとThreadsと某匿名掲示板くらいなのだが、大体絶賛一色でその中でも「大人の鑑賞に堪える」とか「子供向けアニメとは思えない」とか「深い闇を描いている」とか「容赦も救いもない」というような感想が散見された。へぇ~、まぁ確かに6期のテレビ版でも日曜午前にしては踏み込んだテーマや描写の回もあったからなぁ、劇場版ではさらに凄いことになってるのかぁ~、と思って観たわけですが、何ということはない、ぶっちゃけテレビ版の拡大バージョンという感じでまるで「子供向けアニメ」だし「深い闇」って何のことだよ…みんなどんな電波を受信してるんだ…と思うような内容であった。
と、いきなりディスった感じの感想になっているが、面白かったかつまらなかったかでいえば面白かったです。ただ、あんまり使いたくない言い回しなのだがいわゆる「普通に面白かった」という類のものであったと思う。並みの作品というニュアンスでのプログラムピクチャーと言って差し支えないだろう。さらに言い換えればB級とも言っていいかもしれない。ただ、俺はB級なジャンル映画とか大好きですからね。手癖で作られてるようなやつ。そうだな、同じアニメ映画としてはかつての90年代のドラゴンボール作品群とか今でもたまに見返すくらいには好きですからね。それでいくと本作だって余裕で面白い映画なわけですよ。
ただ俺が非常にギャップを感じるのは本作の内容や出来云々ではなく、なんか絶賛で染まっているSNS上の雰囲気というものなんですよね。いや面白かったけどそこまで褒めるもんでもないだろ、っていう。ちなみに俺が本作を観た直後の呟きは「鬼太郎の不死性って幽霊族だからだっけ? それとも霊毛ちゃんちゃんこが凄いだけだっけ?」という設定どうだっけ? という程度のものであった。というのも別に映画の内容自体には良いにしろ悪いにしろ特に何も言うとこがなかったからなのだが、個人的にはそれくらいの映画だと思うんですよね。
倒すべき悪い奴が出てきてそいつをやっつけるだけなんだからドラゴンボールの映画とかサメ映画とかと大して変わんねぇよ。水木と親父の関係に萌える(死語)というのならそれはそれで理解できるが、じゃあ作品のテーマが深遠であるとか水木イズムを表しているとかといった言葉で装飾せずに「水木と親父尊いよね…」とだけ言っておけばいいのだ、と俺は思うんだけど、どうなんすかね。まぁ盛り上がって客がたくさん入るのは良いことでしかないのでガンガンヒットしてほしいとは思うのだが。
ちなみにお話は田舎の村のとある一族が悪いことしてて、人間も妖怪もその一族の悪い人に翻弄されて不幸になったりするお話です。鬼太郎だから必須要素ではあるんだが結局バトルして何かエモい雰囲気を出しながら終わる感じです。
それは別にいいんだけどさ、要は勧善懲悪で終わってるわけですよ。別にそれは良いよ。特に本作なんかはせいぜいPG12の作品でしょ? 当たり前だが子供が観るのも想定してるんだから娯楽作として分かりやすい悪役を据えるのは別にいいんだけどそんなの傑作だなんだと誉めそやすほどのもんかね、とは思うんですよね。特に上でも引用した「容赦も救いもない」とかいうような感想は失笑もので、そんなに救いのない映画を観たいなら『アイダよ、何処へ?』でも観りゃいいんですよ。どうせ観ねぇだろうけど。ちなみに鬼太郎6期は日曜朝のアニメでありながらもっと割り切れない複雑なお話を、本作ほど陰湿ではない雰囲気で描いていたので、大人向けというならテレビシリーズの方が余程大人の鑑賞に堪えるものを作っていたと思う。横溝的な世界観がどうこうといってもそれもジャンル映画的なあるあるとしての悪しき田舎を描いてるだけで、田舎というか閉鎖的なコミュニティが持つ普遍的な閉塞感を構造的に描き出しているとかそういうことは一切ないんだよ。
あぁ、また文句を言ってしまっている。いや作品自体は面白かったんだよ。矢継ぎ早に話が展開したり急にバトルシーンが挿入されたりするのは、わぁ! 飽きないなぁ! という感じで面白く観られたし、そのバトルシーンの作画(特に中盤のやつ)はめちゃくちゃ良作画だったしね。水木イズムが反映されているかどうかは水木作品のどこに重きを置いているかによって変わるところだとは思うが、反モーレツな部分は確かに水木作品っぽいなと思いつつも悪役を単なる悪役としてしか描いていないところは全然水木作品っぽくないよなとも思った。
まぁそんな感じなので普通に面白いけど普通にダメなところもある映画で、まぁこんなもんじゃね? って感じの作品でしたね。でも冒頭の水木が村に辿り着いてヒロインに出会うまでの伝奇ホラー的な雰囲気は良かったので、バトル要素は抜きにしてあの雰囲気のままで『妖怪ハンター』もアニメ化してくれないかなぁと思いました。もっと珍妙なノリで『栞と紙魚子』でもいいけどな!
最後に一応書き足しておくと、本作がめちゃくちゃ好き! もう100点満点! っていう人は別にそれでいいし、最高だと言えばいいと思いますよ。俺はそこまでではないな~、と思っただけなので。好きな映画は好きだと言いましょう。
ヨーク

ヨーク