ヨーク

リトル・パレスティナのヨークのレビュー・感想・評価

リトル・パレスティナ(2021年製作の映画)
4.0
重くシリアスなドキュメンタリー映画を観る度に、面白いとかつまんないとかではなくて俺に言えるようなことなど何もないのだがとりあえず観た方がいいよ、ということを毎回のように書いていると思うのだが、本作『リトル・パレスティナ』もそういう映画でありました。だからあんまり言うことはないというか、俺なんぞに言えることなど何もないという映画なんだけど、とりあえずどういう映画かの紹介くらいはしておくか。
本作の舞台となるのはヤルムーク・キャンプと呼ばれるいわゆる難民キャンプで、その場所はシリアの首都であるダマスカスの南部にあるという。作中では正確な位置がいまいち分からなかったがヨルダンやイスラエル北部の国境に近い辺りなのだろうか。そのヤルムーク・キャンプというのは1957年以来、世界最大規模のパレスチナ難民居住区があるのだが未だ記憶に新しい2012年から数年にわたってのアサド政権による物理的な封鎖を受けて物流も経済も寸断されて国連からの支援物資も届かずにただ餓死を待つだけの場所になった。本作はその模様をヤルムーク・キャンプ出身の監督がカメラに収めた映像を編集したものである。
ちょっと驚いたのは、難民キャンプというと何となくぼんやりとそのキャンプという言葉の響き通りにテントや仮設住宅で暮らしている姿を想像してしまうところがあるかもしれないが、本作の舞台となるヤルムーク・キャンプというのは普通に町であるということだった。何でもダマスカスのベッドタウンとしてそこそこ発展していたらしい。まぁ現イスラエルから追われた人たちがその場所に集まったのが1957年頃らしいが、そこから半世紀以上は経っているのだからそれも納得ではある。
ただそれがジャスミン革命から地続きのシリア内戦を経て、ある意味では安定していたヤルムーク・キャンプに終焉が訪れることになったわけだ。そこら辺の出来事が歴史として定まるにはまだ早すぎて、おそらく現状ではどのような政治的かつ経済的かつ軍事的かつ思想的な絡まり合いでそうなったのかという結論めいたことは語れないと思うのだが、本作がそのいずれ歴史となるであろう大きな流れの一部分を切り取ったドキュメンタリー映画であることは間違いない。
だからまぁ、最初に書いたようにこの映画で描かれていることに対してどうのこうのと偉そうなことは誰にも言えないと思うのだが、とりあえず機会があれば観た方がいいよ、という映画なのである。俺なんかに言えるのはただそれだけですよ。現在進行形でイスラエルとその周辺地域は全く心が休まらないことになってしまっているが、それが歴史として総括されて人類史における何らかの意味を付与される前に観ておくべき映画ではないだろうかと思う。要は、えらい人たちが「これこれこういうことがあったんですよ」とまとめてしまう前に自分の目で観て、考えるべきだろうと思うのだ。
40~50メートルくらい先で迫撃砲が爆発する中で他に食べるものがないからと野草を採取する少女の姿とか、きっと歴史としては残らないと思うんですよね。ポリ容器にこびりついたカスをかき集めて口にする人の姿とか、叶えたい願いは? という問いに「兄を生き返らせたい」と言うちびっ子とか、多分歴史には残らないしみんな忘れると思う。だからこそこれは価値のある映画だし、機会さえあれば観てほしいと思います。
しかし本作は極限まで追い詰められた人間の姿が虚飾なく描かれているのだが、そんな中でも式と呼べるほどではないが結婚のシーンが記録されていて、そこでおっさんがひたすらチンコとキンタマの下ネタジョークみたいなことを言っていたのが非常に印象に残ったな。あ、やっぱおっさんってどんな文化圏でも結婚の場では下ネタジョークを言いたがるんだ、っていう、そのことはなんか色んな境界を越えている感じがして笑顔になってしまいました。
とりあえず観られる機会があれば観てください、という映画でしたね。
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