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地図になき、故郷からの声のganaiのレビュー・感想・評価

地図になき、故郷からの声(2021年製作の映画)
4.0
「トルコ・シリア大地震支援チャリティ上映会」という催しで鑑賞。本作でトルコ語通訳を務めた礒部加代子さんとクルド人当事者の方を交えたトークショー(とクルドのお菓子)付き。

1920年代トルコ政府の同化政策によりクルド語を禁止された中で、歌により細々とクルド人の文化を伝えてきたデングベジュと呼ばれる語り部を、トルコ南東部に訪れて取材したドキュメンタリー映画。

100年近い弾圧の間に親世代は息子たちを学校に通わせるために都市部に移り住み、地位や豊かさと引き換えにクルド語は徐々に薄まり、未だ勉学への道を阻まれて家で過ごす事の多い女性と少数のデングべジュがクルド文化を伝える担い手になっていったのだそうです。

映画の中では三人のデングべジュ本人や親族・知人にインタビューしているだけど、語り伝えてきた話は政府から受けた虐待の記憶、恋話、軍記など人によって実に様々なのが興味深い。

終盤には政府の迫害を逃れて日本にやってきたクルド人の方が彼ら自身が過去に列強国の後押しで他民族を迫害した歴史がある事、今自分達が同じ目にあっていて歴史は繰り返すのだと語っている。

多分その人は入管法による長期収容や強制送還の恐れの中で建物解体の仕事に従事しているのだけど、ある家に捨て置かれた百科事典の1920年の世界地図にクルディスタン(共和国)と書かれているのを見つけて驚喜してスマホのカメラに大事に残しているのだそうだ。いつかクルドの存在が忘れ去られそうになった時に「ちゃんと日本の事典に載ってたぞ。私達の国は確かにあったんだよ!」と胸を張って伝えるために。

映画中盤のトルコでのインタビュー中に、通訳の礒部さんが「日本でクルドの研究をしています」と現地の方に伝えると「日本でそんな研究して何になる⁉︎トルコでこそ研究するべきだろう?」と問われて絶句してしまうシーンがあるのだけど、実はその答えは朽ち果てた古い日本家屋から見つかった百科事典の中にあったのだ。
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