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灰と幻想のグリムガルのウシュアイアのレビュー・感想・評価

灰と幻想のグリムガル(2016年製作のアニメ)
4.3
以前の記憶も特別な能力もお金もない状態で「グリムガル」という異世界に転移してしまった若者たちのヒューマンドラマ。

おなじみの異世界転生・転移した主人公のなろう系の剣と魔法のハイファンタジーで、冒険活劇譚よりもヒューマンドラマ主体の作品。ジャンルやテイストとしては『最果てのパラディン』や『葬送のフリーレン』に近い。チートスキルを身に付けた転生主人公の無双物語が飽きられつつあり、ヒューマンドラマ主体のエモいファンタジーも最近では少しずつ日の目を見るようになってきたが、本作が5年前の作品ということでその先見性に敬服したい。

主人公たちは異世界で困窮し、藁を敷き詰めた寝床のドミトリーという最下級の宿に寝泊まりしながらパーティー6人がかりでやっと1匹のゴブリンを倒す、という状態で話は始まる。ただでさえ現実世界は世知辛いのにファンタジーの世界までこんなハードモードなんか見たくない、と言う人には向かない作品かもしれない。仲間の死はもちろん、日々の糧のため6人がかりで1匹のゴブリンの命を奪う場面においてもファンタジーの世界では軽くなりがちな”死”を現実世界並みに重く置き、心理描写の面でリアリズムに徹している。

ファンタジーは本来は歴史や文明が違う物語世界で人間の普遍性を描くものであるから、登場人物の考え方や心理にはリアリティがあることの方が当たり前。最近は登場人物が特殊なものが多く、そういうのはポルノというのではないだろうか。

ただし、『鬼滅の刃』『最果てのパラディン』が嫌われた要因と同様に心理描写が脚本の上では主人公のモノローグに頼りすぎの傾向があるのは否めない。これは原作や脚本の問題かもしれない。

物語以上に特筆すべきは、背景画の美しさ。水彩画調の背景がとても幻想的で世界観にマッチしている。

声優はかなりの重量級揃い。
主人公のハルヒロは見た目は平凡な少年で、最初は強面役が多い細谷佳正さんの声が合っていないと感じたものの、特に主人公のモノローグでは表現力が問われることもあって、やはり細谷さんで正解。それ以上に、ランタ役の吉野裕行さんには驚き。演技が突き抜けており、ランタというキャラクターに圧倒的な説得力を感じた。

1期から5年経っており、原作のストックもあるので2期が作られてもよそうだが、先の展開が重いらしく、やはりエモいヒューマンドラマ主体のファンタジーはまだ多くの人に受け入れられていないのだろうか。2期制作が待ち遠しい。
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