山岡

スタートレック:ヴォイジャー シーズン1の山岡のネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

『DS9』7シーズンの後、劇場版『ファーストコンタクト』を鑑賞し『ヴォイジャー』へ到達。

デルタ宇宙域で漂流する戦艦ヴォイジャーを舞台にした本シリーズ。クルーは惑星連邦の宇宙艦隊と反カーデシアのテロリスト集団マキの混成部隊。今のところ、『TOS』『TNG』的な未知のエイリアンとの交流をベースにしつつ『DS9』のようなクルー間の対立もしっかり描いたバランスが良くとれたドラマという印象。

シーズン1はたった15話と1クールに毛が生えた程度の話数しかなく、基本的には各クルーのキャラクターを少しずつ紹介している段階。超傑作エピソードは無いが、平均的にどのエピソードも一定程度の面白さがある。

ベストエピソードはEP6「ワームホールの崩壊」。DS9でも印象的な舞台装置であったワームホールを使ったエピソード。新海誠『君の名は』的な、時代を超えたコミュニケーションの喜びと敵対するロミュランとの友情という2つの要素が掛け合わされ、非常に感動的なドラマになっている。前半のロミュラン船の艦長とジェインウェイの微妙に噛み合わないやりとりなど伏線が巧妙に張られており、見事な作りのエピソードだ。

EP13 「二人のトレス」も見応えがあった。クリンゴンと地球人のハーフのトレスが二人に分かれてしまうという内容で、TOS「二人のカーク」をアップデートしたかのようなエピソード。TOSではウィリアム・シャトナーの素晴らしい演技を堪能できるが、こちらもトレス役のロクサン・ドースンと吹替の五十嵐麗の見事な演じ分けと編集の妙を楽しむことができる。それまであまり個性の見えてこなかったトレスを、勇敢で暴力的なクリンゴンと理知的で臆病な地球人という二つの面に悩む存在と定義することで一気にキャラクターとしての魅力を高めることに成功している。

そして兎にも角にもシーズンで一番印象に残ったのがEP14 「殺人兵器メトリオン」。僕がこのエピソードを鑑賞した2023年の8月は、奇しくも映画『バービー』と『オッペンハイマー』をミックスして原爆を笑いのネタにした画像がSNSに出回り、日本国内で大きな批判が巻き起こっていた。このエピソードで描かれるメトリオン爆弾ははどう考えても広島・長崎に落とされた原爆のメタファーであり、爆弾の開発者であるジェトレル博士はオッペンハイマーをイメージしているといって間違いないだろう。アメリカのエンターテイメント作品は日本への原爆投下や核兵器についての描写があまりにも雑すぎることでお馴染みだが、90年代にここまで被害者の心情に寄り添ったエピソードを制作していたとは本当に驚きだ。ニューリックスがジェトレルに投げかける罵りの言葉は原爆を落とされた日本人の思いをある程度的確に表現できていると思うし、またジェトレル博士の態度からは後悔の念と贖罪の気持ちがしっかりと伝わってくる。
ジェトレル博士の我が身を顧みない贖罪の行動に心を打たれ、ニューリックスが彼を許すという展開も大人な着地だし極めてスタートレック的でもあるが、この展開をアメリカ人の製作者が作ったことに一抹の暴力性を覚えた。
非常に意欲的かつ画期的なエピソードであることは疑いようもないが、同時に、理想主義的な世界観が魅力のスタートレックで現代の事象を描くことの難しさも感じる内容だった。

15話と非常に短いがキャラクターへの愛着が少しずつ深まっている。シーズン2以降ではジェィンウェイのキャラを深掘りするエピソードを見てみたい。
山岡

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