Yui

坂の途中の家のYuiのレビュー・感想・評価

坂の途中の家(2019年製作のドラマ)
4.5
苦しみがリアル過ぎて、心と身体がずっしり重くなるような、久しぶりにめちゃくちゃ入り込んで観れたドラマだった。凄く完成度が高く、メッセージも伝わった。

乳児虐待死事件の補充裁判員に選ばれた30代の母親。2歳の女の子を持つ専業主婦の彼女の心理を描いた小説が原作のサスペンスヒューマンドラマ。

家庭という閉ざされた生活の中で、夫や実母、義父母にじわじわと気付かないうちに追い詰められて行く二人の母親。

「モラハラ」や「毒親」というと、少しばかり軽く聞こえてしまう気がするけど、精神的暴力を受けている本人も、与えている人達も「気付かない」というのが恐ろしい作品だった。

子供が死んだから裁判になったけれど、人が死なない目に見えない暴力が本当にそこにあるんだということを、もっときちんと知らなければいけないと思った。「あなたの為を思って」という名の暴力は、誰も暴力に気付かないから、知らぬ間に心がボロボロになり、恐ろしい事件にも繋がる。どちらの心理も分からないと、解決にもならない。

主人公と、裁判の被告人である母親の話がメインではあるものの、他の母親達、子供のいない女性、父親など、色んな登場人物の心理の核心を突くような描写もとても素晴らしく、子供がいてもいなくても自分に引き寄せて観られる作品だと思います。

幼い子供を手にかけてしまう母親はニュースでよく目にするし、最低な行為だけど、そこに至るまでの経緯を想像すれば「子供を殺した事実」以外には同情すべき点が沢山ある場合が多いと思う。助けてと言えず、他人の母親像に押し潰され、誰かと比べられ、頼る人もいなくて、自分を責めてしまう…こんなに苦しい事があるだろうか。

ドラマの中で、キャリアのある女性が「いくら仕事が出来ても、母親として失格だったら人間失格なんだ」と言った言葉が印象的だったけど、本当にその通りだと思った。男性はそんな風には思われず、逆に仕事が出来ない事の方が生きていく上で失格と思われるのかもしれない。そんな風潮に傷付く人が沢山いる。

色んな人の言動にとにかくイライラするドラマでもあったけど、その言動がリアルだったので言葉って本当に人を殺すなと改めて思わされた。

「普通」という言葉の恐ろしさ。誰かの「常識」の中で生きなくてはいけない事の恐ろしさ、キャスト陣の演技力と共に、心の闇、社会の闇をまざまざと感じた作品でした。

1話から夫の言葉にぐいぐいと心が抉られ、子役の子の泣きのシーンに気が狂いそうになりましたが、人の痛みを想像するという事の大切さが身に沁みました。

素晴らしいドラマでした👏
これがWOWOWドラマなの勿体ないな。
Yui

Yui