なっこ

この声をきみにのなっこのレビュー・感想・評価

この声をきみに(2017年製作のドラマ)
3.3
活字離れが進んでいると言われて久しいけれど、1日に処理する文字情報の量はきっと今の若い子の方が多い。
だってスマホの画面の中には文字がギッシリ。もちろん画像も多いけれど。

その文字情報のどれだけを私たちは人の声で受け入れているのだろうか。

会話やニュース、それ以外で音としての“声”をどれだけこの身体に取り込めているだろうか。

物語は、ダメダメ夫の離婚劇から始まる。これでもかってほどの身勝手ぶりに完全に妻のミムラの方に感情移入してしまうけれど、少しずつ明らかになっていく彼が抱える“ぽっかり”感に共感して、朗読に出会って変わっていく彼を応援したくなっていく。あんな男が変わるはずないじゃない、ってこともなく、そのゆっくりと、無理なく変わっていく過程にとてもリアリティがあって共感できた。どん底からの再生劇が、“新しい恋”というありがちな展開かと思わせながら、そこを朗読と新しい仲間との出会いが娘や実父との確執の解消に向かわせていく流れに、文学の力を信じるものとして、なんだか嬉しくなってしまう。

エンドロールで劇中に取り上げられた本がきちんと提示されているのも良い。おかげで読みたい本が増えた。何より、詩や童話の素晴らしさを、劇中劇(主人公の妄想?想像?)で鮮やかに映像化してくれたことに感動する。それは誰にだって内側に豊かな想像力があることを教えてくれる。

舞台となる朗読教室のセットも後ろにアンティーク感のある本棚がたくさん並んでいてとても素敵。どんな本がそこに並んでいるのか見たくて仕方なかった。そして主人公たちが挑む発表会も、群読やいろんな発表方法があってとても魅力的だった。朗読の新しい魅力を教えてくれた。ラストはとても爽やかで良かったけれど、まだ見たい。続編を望みます。
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