あおき

生きる LIVINGのあおきのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.4
黒澤明の名作「生きる」のイギリスリメイク。恥ずかしながらオリジナルのほうは未鑑賞で、そのままこちらのリメイクを鑑賞した。
マジで誰にでもオススメできるタイプのめちゃ良い映画だった!

「長ぐつをはいたネコと9つの命」でも”中年の危機”や”良心”的なテーマを扱っていたけど、当然本作では更にリアルな人間生活の危機に寄り添っている。

主人公は風体は立派な英国紳士だが、その生き方は抜け殻のよう。人はみんな、最初は意義と情熱に溢れた人間になろうとしても、社会に揉まれてそれらを失い”ゾンビ”のようになってしまう。ある岐路で人生を振り返ったときの虚無感は誰しもが想像しうるだろう。
そんな瀬戸際で「生きた」と感じれるにはいったいどう「生きる」べきなんだろう…娯楽に耽るでもなく、世間に評価されることでもなく…と考えると答えは単純かもしれない。

これはオリジナル準拠なのだろうが、モチーフの反復がかなり美しい。主人公の歌う『ナナカマドの木』の歌詞や「子供が友達と遊びふけて、親に帰るよう言われて駄々をこねる、そんくらいが良い」みたいなセリフと、後半の展開が重なって感動しちゃう。

主人公の「手本となる生き方」を知って影響を受けたかに思えた周囲の人物が、結局ゾンビ的人生を脱却することはそうそうない、ということも辛辣に描かれる。実際、本作を観た我々の生き方だって同じく豹変はしないだろう。
しかしそんな社会に呑まれず「生き方」を心に呼び起こす些細なきっかけが必要で、劇中のピーターにとってそれが”遊び場”であるという微かで孤独な継承も描かれる。
そして鑑賞者にとっては“この映画”自体が「些細なきっかけ」なのだということまで示唆されているように感じた。これは「なぜ映画を観るのか」──特に「なぜ今、社会派映画が求められているのか」という問いへの答えですらあると思う。観てきたすべて映画の存在を常に思い起こそう。学んできた沢山の教訓を反復し、人生に体現してゆこう。それがきっと社会を変える継承を生むはずなので…!!

上映時間が100分強とかなりコンパクトなだけあって、思ってたよりテンポ感良く物語が進行した印象。もっと余韻を効かせたりや関係性の説明に時間を使ったりしても良い気もしたけど、観やすいに越したことはねえ。ありがてえな~
あおき

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