銀色のファクシミリ

狼 ラストスタントマン/狼 LONEWOLFの銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

3.7
『#狼ラストスタントマン』(2022/日)
劇場にて。日本を代表するスタントマン髙橋昌志氏、リアルレジェンドの存在感とアクションに尽きる。『#狂武蔵』で思った事だけど、「これをやりたい、撮りたい」という熱意で作られた作品は、いつもの映画を観る物差しでは測れない魅力がありますね。

あらすじ交えて感想。過去に大きなスタントの失敗で死亡したスタントマンの息子、アキラ(南翔太)。彼の20年ぶりの帰国は、事故の原因である大久保豪(髙橋昌志)への「復讐」のためだった。彼は父と大久保の旧友である藤堂(石黒賢)を頼り、スタントマン修行を開始する…と進んでいく。

髙橋氏のスタントシーンの数々を見せ場として時間を多くとっている作品なので、いわゆる商業映画とは変則的な作り方。全体でも86分と短めだし。現在の状況や過去の経緯とかをセリフで全部説明しちゃうのは普通なら野暮だけど、この作品だとむしろ正解なのだと思う。

では奥行きがないのかといえば、そんな事はなく、リアルレジェンド髙橋昌志さんの姿と形、存在そのものが、観客に様々な想起をうながす。だって一目見れば分かるけど、ただ者じゃないもの。髙橋さんと、この映画で演じる大久保豪という人のこれまでの人生や、今は内に抱えている想いを、想像せずにはいられない。

日常ではない経験が刻まれた顔つき、アスリートの如きスマートな肢体。偶発的な危険が身近にある人の持つ緊張感、今の日本ではベテラン消防士さんくらいしか思いつかないけど、昔の兵隊さんや武士はこういう雰囲気だったのかなと思わされる「ただ者じゃない」感。俳優活動の続行を希望します。身に纏う本物感で、日本のリー・アーメイにならないかなあ。

怒りをぶつけるアキラにも、その怒りをただただ贖罪のように受け取め続ける大久保だが、ある出来事で、20年間封印していた自分を解き放つ。ここからのかつての自分、本物のスタントマンを取り戻していく作業の説得力とワイルド食事シーンは必見。

20年前の事故は、アキラと大久保、そえぞえの人生の時間を止めてしまった。二人の出会いによって、時計の針はまた動き出す日が来るのか。だからこの映画はあそこで終わるのだと思います。あと予告編でも触れられていない大きなスタント含め、あれもこれも全部を髙橋さんがやってると思うと二度オイシイ映画でしたねえ。感想オシマイ。