あおき

ザ・ホエールのあおきのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.1
「マザー!」以来のダーレン・アロノフスキー監督最新作。解釈しきれているかというと難しいが…かなり良かった!!



「ホエール」ということで思いっきり「白鯨」に絡んでくる。ということは当然キリスト教映画なのだけど、そのエッセンスを反復したりとかなり分かりやすく印象付けてくれるので観やすい。

主人公が言っちゃえばかなり無責任なのだが、その身勝手な行動にある意図には感情移入できてしまう。リズもチャーリーの介護・看護に徹するけど、彼の深い絶望を理解しているからこそ、暴食を止めることはできなかったり。そんな各人物の善悪では結論が出せない人間らしさがものすごく絶妙だったと思う。

主人公の家というほぼ限られたシチュエーションかつ窮屈なアスペクト比も、生きることの息苦しさとか世界に対する閉塞感をすごく効果的に表していた。
















⚠️以下かなりネタバレ⚠️
















劇中で何度も言及される、小説「白鯨」に関するエッセイ。
「鯨は無感情で無知なのに追いかけまわされ、エイハブ船長は鯨を倒せば人生が良くなると信じ執着していて、どちらも哀れだ」
「鯨の説明ばかり退屈なほど書きながら、自身に関わる重要な言及を後回しにしていることに自身の人生を重ねた」と。

これにすべてが込められているとすら言える。

鯨とは神(キリスト教=同性愛を罪とする考え)。
チャーリーやアランは不寛容な神や世界に怒りながらも、怒りの対象が強大すぎることも知っている。
チャーリーは自身のセクシャリティから目を背けて家庭を築いたが、その後”後回し”にすることをやめ、正直に生きてみた。

エリーにとって鯨とは更にチャーリーとしての意味を持つ。
エリーは自身と母を捨てたチャーリーを強烈に恨み続けている。
それは至極当然だと思うが、その怒りは自身のセクシャリティから目を背け続ける手段にもなっていたのかもしれない。
(SNSで「レズビアンめ」と罵られているっぽい描写が一瞬ある)

このエッセイにまつわる展開は本当にビックリした!さすがにアランのエッセイだと思うじゃん。
家族と生きた時間はチャーリーにとって仮初なんかではなく、かけがえのない真実だったということだよね。
この、どちらが真実の愛だった、とかじゃない感じも巧い~~。



さて正直、まだ作品としての軸みたいなものは理解しきれていないんだけども。
社会が要求する型に囚われず、自身の怒りや絶望の感情にも囚われず、ただ正直に綴り、そのままに在れ。
みたいなことでしょうかね?うーん。もうすこし掘り下げたい。
とにかくこうも心を掴まれる作品だったです
あおき

あおき