玄助

ザ・ホエールの玄助のネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ブレンダンのいくつかの授賞式のスピーチに心を打たれ、またブレンダンの古くからの友人キー・ホイ・クァンの本作へのコメントに心を惹かれ、久しぶりに劇場へ。
なお、本作を見た人は是非ブレンダンの複数ある授賞式も見て欲しい。

肥満・悲しみ・渇望くらいのイメージだけで映画を見始めると、初っ端から汚い笑
最初はただ盛大にイッてんのか苦しんでるのかわからんかったわ。
苦しんでるって分かってからも、よくわからんエッセイ聴きながら腹上死しようとしてんのかこいつぐらいにしか思ってなかった。
んで金もないから病院に行けないと。
完全に人生詰んでしまった逃げ道なしの肥満男性が、最後に人生の意味を見出す映画。
冒頭で得たイメージはそんな感じ。
結局最終的に言葉としてはそういう映画であってはいるんだけど、そこに含まれている意味は複雑だった。
どうまとめたらいいもんか考えたけど全然まとまらんからとにかく思ったこと人物でまとめた。

トーマス
恵まれた幸せ野郎がただ盲目的に宣教活動してんかと思いきや、人を救うってなんぞやを真剣に考えた結果自分で宣教活動するために金横領するっていうぶっ飛び野郎。
悪意なく真剣に考えて宣教で他人を救えると思ってたけど、最後のブレンダンの恋人に関する質問と容姿に関する質問で、自分の信じる正義・真実の提示は他人の想いの全否定につながることと、そもそもの自分の感情の矛盾を突かれて、罰悪そうにしてた。
10代20代ではある程度皆こういう、正論や一個人の考えと割り切った意見を振りかざすことで、意図せず人を深く傷つける経験をして、これを通じて、言葉の重みだとか他者への思いやりだとかを育んでいくもんだと思う。ここで「悪気はなかったんだからしゃーないやん!」と本人が開き直ったらクズだ。しゃーないかも知らんけど自分で開き直って自己擁護し始めたらあかん。トーマス君は開き直らないといいなぁ。

リズ
兄を亡くした哀しみをチャーリーと共有し、チャーリーを甲斐甲斐しく面倒みてくれている友人。
彼女も兄の喪失からは立ち直れていないように見え、だからこそチャーリーとの関係は完全なる共依存関係なんだろうが、それでも彼を心配するのと共に彼を尊重する相反する行動はいかに彼女がチャーリーを大切にしているかがすごく伝わってくる。願わくば作品の世界でその後幸せになって欲しい。

エリー
厨ニ病。反抗期。無敵の人。10代なんてそんなもんよね。でもチャーリーに捨てられたことに深く傷つきトラウマになってて心のどっかで父の愛を求めてる。
トーマスにやったことは多分優しさよりかは考えなしにやった暇つぶし程度ではなかろうかと思うが、誰かが「それはあなたの心の奥底にある優しさがそうさせたんだよ。」といってあげれば、彼女の中にそれは育つし、メアリーのように「それはあなたの純粋な悪意だ。」といえばそうなる。10代なんてそんなもんだ。善悪の判断なんて取ってつけられたもんで、経験を通じて自分の中に良い面も悪い面も後からいくらでも育つんだ。でも自分が世界だと思ってるから傲慢で、でもそのくせ超周りの影響を受けやすい。エリーに対する、全てを包容してくれるようなチャーリーの眼差しはきっとエリーの中に寛容な心と暖かい安心を与えてくれたと思う。

メアリー
エリーの話と登場直後の会話からアル中銭ゲバかと思ったけど、これまた複雑な感情に苛まれた繊細な人だった。
チャーリーに捨てられ憎み、でもチャーリーにダメな母と思われたくもなく、チャーリーの体を心配し、愛憎入り混じってもうわけわからんくなってる感じだった。
元恋人、元夫、娘の父、自分を捨てたゲイ、元家族。チャーリーに対するレイヤーがいっぱいある分その感情も複雑化するんだろう。彼女自身にもレイヤーがあるわけだし。とにかくチャーリーが彼女にとって今も大切な人なんだと感じた。2人で寄り添って海の話をしている所は幸せで、悲しくて、胸に来る。泣いた。

チャーリー
彼が重きを置いてたのは終始亡き彼氏と娘への想いだった。でもだからといってトーマスやリズ、メアリーを軽んじたり蔑ろにはせず、誠実に接していた。
何か考えを強要するわけでもなく、相手の説得や助言に添えないときは申し訳なさそうにしてた。その目はずっと優しくてまんまるで綺麗だった。
作中通してリズとふざけてる時とエリーのノートを読んでる時の2回笑ってた。じんわり心が暖かくなるのと共に、ゴールがはっきりしてるからいたたまれなくなった。
リズにお金の件で怒られ、エリーにエッセイの話をする暇もなく罵倒され、メアリーにエリーの話を切られて置いてけぼりにされた時の自暴自棄になっている場面は辛かった。
特に“I need to know that I have done one thing right with my life”は刺さった。自分は正しいことをできてるんかな。

自分を見る時は醜くて汚くて惨めで、でも周りに対しては優しくて寛容で、みんなに生きてて欲しいと想われて(トーマスはほっとけ)、でも本人はエリーの未来と亡き彼への想いだけが大事で、やるせない。

最後の日
最後の講義。自分が何を想うか。何を想うべきかではなく何を想うか。
大事ですね。歳取るにつれどうあるべきかが強くなってって、どう感じてるかが置いてけぼりになりがち。こうなると心が死んでくような気がする。もちろん好き勝手はできないけど、自分にとって、自分の人生において何が一番大切なのかぐらいは見失わないようにしたい。
最後。袖が死んだ。

すごいよ。
出来事・場面は単調なのに内面・感情がもう大混乱で大洪水で大反乱で大爆発だ。

ブレンダンありがとう。
玄助

玄助