むぅ

友情にSOSのむぅのレビュー・感想・評価

友情にSOS(2022年製作の映画)
4.1
「平和だな...」と思った。

友人と待ち合わせをしていた、とあるカフェ。決して席と席の間は広くない、何なら密接している方だ。
隣に座っていた方が席を離れた。
スタッフの目が届く席ではない。
テーブルの上にはパソコン、スマホがそのまま置かれていた。
私ならスマホとお財布は席を離れる時に持っていくな、と思った。
もし、その方のスマホやパソコンがなくなったら第一容疑者は隣に座ってる私だな、とも。
そこで思った。
その状況で一番遠い席に座っていたのに一番に疑われたらどんな気持ちになるだろうか。
もしもその方が、隣に座っている私をチラ見してから、あからさまにスマホやお財布を持って席を離れたらどんな気持ちになるだろうか。

緊急事態になった時にあらわれる人種差別の構造を描いた今作。

黒人の大学生3人が自分の家で白人女性が倒れているのを発見。
白人ではない自分たちが通報したら、そもそも疑ってかかられるだろうし下手したら撃たれかねない!と自分たちで病院に運ぼうとするのだが....。

ドタバタコメディ的に物語は進んでいくのかなと思いながら観始めたのだが、どうやらそれだけではない事が冒頭の彼らの授業シーンで、もう分かる。
その授業のテーマが「Nワード」だった。その授業が始まるまでの彼らのおふざけの中で、同じ歴史を持つ人種同士だからこそ差別的な意味合いを逆手に取りポジティブな意味を持つスラングとしてのNワードを使わせておいての、そのシーン。見事だと思う。
私個人の解釈としては、差別という言葉では片付けられない迫害を受けている際に浴びせられた言葉がNワードで、今もなおその言葉は"武器"のような威力と恐怖があるのだと思っている。
言葉って、その一言で自分や誰かを傷つける事も守る事もある。
日本語だけだけれど、とりあえず何とか言葉を扱えている身として、その歴史や使い方をより大切にしていきたい。

「早く警察に連絡したら!」
どうしてもそう思ってしまうのだけれど、それを避けたい彼らの"心情"が次々と巻き起こるハプニングで説明されていく様にこちらも心が追い詰められる。
観ながら『ヘイト・ユー・ギブ』や『ルース・エドガー』、Netflixのドキュメンタリーの『あなたの知らない卑語の世界』などを思い出した。

そして素晴らしいラストカット。
それまでの映像全てでぶん殴られるような秀逸さだった。
忘れられない。
むぅ

むぅ