和

今夜、世界からこの恋が消えてもの和のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

寝る度に記憶を失くすなら、嫌なことは全部忘れて楽しいことだけで毎日を埋め尽くせばいい。

一見「逃げ」にも見えてしまうこの考え方は、途方もなく愛の深い考え方だと思う。

嘘の告白をしたり恋人ごっこに付き合ったりと自己犠牲に躊躇いのない透の、自分がいなくなった時には真織の記憶から完全に消してあげてほしいという最後の願いにこそ、本当の愛情が隠されていたんだと思う。

自分が大好きな人に辛い思いをせずに生きていってほしい。そのためなら自分の記憶を消してしまっても構わない。

真織を想う純粋な気持ちと自己犠牲の塊のような透らしい愛情表現の形がこれなのだ。

だけど真織の手元には、髪留めやキーホルダー、無意識に透の姿が描けてしまう手続記憶などどれだけ頑張っても消せないものが多く残されていた。
これが内気で遠慮しがちな透が残した小さな我儘だったんだと思う。

「記憶が消えてしまう」というありがちな設定だが、見終わった後はそんなのは本当にただの設定に過ぎなかったと痛感した。観ている人たちの胸を打ったのは紛れもなく、2人の間に生まれた小さくて純粋で優しい愛情だ。

どんな人間でも記憶は薄れていく。だけど、その時の感動やときめきを丁寧に書き留めておく真織は、寧ろ他の人よりも透の記憶を大切に取っておけるのかもしれない。
そんな矛盾に気がついて、救いようのないラストに少し希望が見えた気がした。

私もまっすぐな愛情に胸を打たれた人間の1人として、この記憶をここに書き記しておこうと思う。
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