Fitzcarraldo

NOPE/ノープのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.0
夏休み向けメジャー級大作を指す"サマー・イベント・フィルム"を狙ったJordan Peele製作/脚本/監督作。

撮影監督にHoyte Van Hoytema。

彼の参加が決まるまではデジタルカメラを使用するものと想定していたらしいが、起用が決まると65mmの大判フィルムとIMAXで撮ることが決まったという…。

やはり映画のルックを決める撮影監督の役割は大事である。このホイテ・ヴァン・ホイテマの英断のお陰で、とてつもない没入感が生まれたことは間違いない。

本作の約4割にIMAXカメラを使用していて、ほぼ全編65mmの大判フィルムが使われているという。

IMAXのスクリーンにデカデカと映るその1カット、1カットが美しいし、そこに自分もいるんだという感覚が、とても気分を良くしてくれる。

これこそ映画が本来持つべき力であるし、これこそが映画体験であろう。


夜の表現も素晴らしい。

ホイテ・ヴァン・ホイテマ
「夜間の大地を舞台にしたシーンをいくつも撮ったが、ロケ地の渓谷はとにかく広大だ。渓谷は山にぐるりと囲まれていて、要は照明を当てられない状況だった。でも物語の性質上、あの場所がいかに広大か、それをしっかりと感じられるようにすることが大事だった。つまり広々としていて雄大で、闇の奥深くまでのぞき込めるような夜のシーンを演出したかった。それでいて嘘っぽさが一切ない夜を求めていた。こういうのは大自然の中で撮影する際にシネマトグラファーが昔から悩まされてきたこと。あるのは月明かりのみ。だけどそれでは撮影するのに露出が足りない。そこで"アメリカの夜"と呼ばれる、ハリウッドで昔から使われている技法を検討した。簡単に言うと、昼間の太陽が的確な角度で当たるように演者を慎重に配置する。できれば逆光で。その上で映像を暗くしたり青みを加えたりして、太陽を月に見立てて、夜であるかのようにする。ところが実際に試してみた結果、やっぱりいまひとつだと言う意見に落ち着いた。それで、色々と工夫しているうちに"アメリカの夜装置"とでも言うべきものを作ることになった。具体的には様々なカメラを組み合わせて、視差が生じないように並べたものだった。そうやって撮影できた映像の中から、赤外線対応のチップを搭載したカメラAlexa65のものをまとめて、いくつかのソフトウェアの力も借りて、本当に夜にかなり近い感覚のシーンを実現できた。そこへ視覚効果スーパーバイザーのギョーム・ロシェロンが仕上げを施してくれた。壮大な夜の感じがしっかりと伝わってきて、素晴らしい出来だったと思う。完全なCGIでもない限り、こんなのは見たことがない。むしろCGIでは、これほどの質感は出せないだろう」(プログラムより)


夜を撮るのにも、めちゃくちゃ試行錯誤していることが窺える。めちゃくちゃ照明を当ててます丸わかりの日本映画や日本のテレビドラマに萎える。これも予算の差か…


映像や没入度は素晴らしいのだが…
なかなか気になってモヤモヤしてしまった点を列挙する。


先ず…。
「見なければ大丈夫」
という根拠の提示が少ないのでは?
少ないというか弱い?

Daniel Kaluuya演じる兄のOJは、何をもって「見なければ大丈夫」と判断したの?

2回ほど真下にいたけど、特に何もなく無事だったから、「見なければ大丈夫」という答えに至ったんだよね?たぶん…。

いや、小屋の隙間から見てたやん。

ていうか「見なければ大丈夫」って、どういう生態なの?逆に言えば、見たヤツしか食べないってこと?そもそも腹へるの?光合成してるかもしれないし、肉食かどうかも分からんでしょうが!

動物同様に腹がへるとして、あの巨体を維持するのに、食糧は何トン必要なのさ?馬一頭で足りるわけないよね?

OJの親父は、アノ生物が吐いたモノに当たって死んだわけでしょ?ということは、その前から捕食してるわけだよね?

あの動かない雲に隠れてるんだよね?
親父が死んでから、あっという間に半年過ぎたけど…

半年後に急展開で物語が動き出すんだけど、あの巨体なら…半年もあればカリフォルニア州の人くらい食い尽くしてしまうのでは?

Steven Yeun演じるジュープが与えていた馬で半年も食いつないでたの?コスパ良すぎるだろ?

というか見せ物ショーにして、客を呼んでたわけでしょ?馬を走らせて、捕食するところを見てたわけでしょ?あの昼間が初めてじゃないよね?

「今日は早いな」

というセリフあったから、何度もやってるわけでしょ?

見てるやん!彼らは何度も!
それなのに捕食されたのは、後になってから…


しかも馬は、Gジャンと呼ばれたあの物体を見てるんですかね?走ってんだから、足下か前を見てるだけで、空は見上げないんじゃない?

「見なければ大丈夫」なら、はじめから馬は見てないような気がするんですけど…

見たから食われたんだという理屈なら、なんで馬の人形は食ったんだろう?作りものじゃん…見てないじゃん。そこの区別もできないくらいな精度なわけでしょ?

下等生物なのか?超進化した生物なのか?も良く分からない。絶対的な力を持ってないからこそ、この曖昧さがあるからこそアナログで迎撃態勢を取ることにも物語上の無理くりさは感じずに済むのだが…

しかし…なんとも言えぬモヤモヤは残る。


気管に絡まるから旗が嫌いという発想を、登場人物がするのは何ともアナログな感じがして面白いのだが…

Gジャンがまさかのフリーザ第二形態のような変形が出来るとは驚きであったのだが、しかし…あのカタチなら旗が絡まるところなくね?とひとりツッコんでしまった。

第一形態の時に、旗がずっと絡まっていたけど、変形すれば取れるやん!

そもそも旗が嫌いって…どんな設定なんだよ?OJが追われる時も、ミニパラシュート付きの旗をなびかせるが…

それならラストの人型巨大バルーンにも旗が纏わりついてたんだけど…嫌いなんじゃないの?その理論なら?明らかに絡まるでしょ?

第二形態だから関係ないのかな…

しかも、バルーンが破れた風圧で死ぬって戦闘力が雑魚すぎないか?

アナログで立ち向かうのは見ていて萌えるのだが…なんか、しっちゃかめっちゃかな設定ではないだろうか?

もう少し細かく設定を調整する人は居なかったのか?

揚げ足取りのようだが、単純に見ていて疑問に思ってしまうと、そこから物語がストップしてしまうので、なるべく疑問を持たれないような明確なルールの提示が必要かと思う。

審判によって「ボール」だの「ストライク」だの判定が変わってしまうのでは困る。

前半で。ジュピターパークでKeke Palmer演じる妹のエメラルドが、井戸を覗き込んだらカメラに映り込んでしまったのをラストにまた使うのは素晴らしいアイデア。


電子式は全部止まってしまうのに対して、機械式ならOKという理屈がよく分からないのだが…『宇宙戦争』と同じ理屈?

ヘイウッド家の真上にGジャンがいて、捕食したものを吐いて、色んなモノが上から降ってきた翌朝、兄貴のOJが電器屋の車を開けて、「早く乗れ!」と…妹とBrandon Perea演じる電器屋のエンジェルを車に乗せる。そして、そのまま普通に走り去ったけど…なんでクルマ動くの?すぐそこにGジャンいたけど…


「ストライク」じゃね?どう見てもここはクルマ動かない場面じゃね?と思ったら、「ボール」と言う。この審判、曖昧だよ。

ルールが曖昧で、見ていてもあまりスッキリはしない。モヤモヤとしながら、最後まで見続けることに。

まぁあまり細かいことを気にしても仕方がないから、気になってもあまり考えないように、身を委ねてしまえばそれはそれでいいのだが…



ホームドラマ「ゴーディ家に帰る」のシークエンスだが…

スタジオで撮影中に、ゴーディ役のチンパンジーが暴れて白人を殴り殺す。アジア系のジュープだけ生き残る。

このシーンもオープニングでは、かなり不穏な空気を出していい感じなのだが…後半にこのシーンを実際に見せる場面になると…またモヤモヤする。

スタジオになんで演者以外いないの?
カメラマンは?
音声さんは?
メイクさんは?
照明は?
大道具さんや美術さんは?

カメラの向こうにある客席のようなところに倒れてた?ピントがきてないから、いまいちハッキリとは確認できないのだが、何人か倒れてそうな感じはあったかな?荷物かな?わからないが…

そもそも、チンパンジーを担当していた調教の人は?いないの?チンパンジーがひとりで現場に来るわけないんだから、いるでしょ?面倒見るプロが!その人も殺された?万が一の時の麻酔銃とか用意してなかったの?

せっかくOJと妹が、導入部でCMの撮影現場を一度見せてるのに…あれと同じように、スタッフは何十人もいるし、その動物を調教している担当がいるはず。というか絶対にいる。

いくら狂気にふれたとはいえ、さすがにあのサイズのチンパンジーが暴れたところで、大人を一斉には殺せないだろ?子どもならまだしも…

チンパンジーのクオリティは高かったから、まぁ別にいいんだけど…

この辺も、もう少しやりようがあったような気がしてならない。



ジョーダン・ピール
「ジュープは子役時代に業界から派手に裏切られたくせに、いまだにあの名声を求めている。大人になってもまだあの夢から覚めていない。見られることを善しとするこの業界の何が悪いって、自分の身に何が起ころうと、見られたいと思い続けるように仕込まれるんだ。自分の価値は、どう見られるか、どう自分が描かれるか、どれだけ業界で成功するかに直結しているとね。それを奪われたからといって、依存度が薄まるわけじゃない。ジュープも永遠に"スペクタル"に取り憑かれている」


自分の身に何が起ころうと、見られたいと思い続けるように仕込まれるんだ。自分の価値は、どう見られるか、どう自分が描かれるか、どれだけ業界で成功するかに直結している…このスペクタルに自分は取り憑かれてると気付いたのなら、そこから抜け出すには自殺するしかないのかもしれない。

相次ぐ芸能人の自殺には、このことも関係しているように感じる。


ユアン
「他人の期待や、その人たちの自己投影によって築かれた人生を生きる感覚って、実は今の社会で僕らみんなが経験していると思う。だって僕たちってみんなインターネットに参加しているでしょう。SNSにも参加しているし、僕らの多くが表向きの自分を演出している。それが他人の見る自分を形作り、自分自身をもそう見てしまっている。そういうことが自分たちにどんな影響及ぼしているのか、みんなうすうす気づいているのではないかな」



エンドロールの終盤に、プレゼンテッドバイ?いや、なんとかなんとかby dentsuとクレジットされていたのだが…

え?なんで電通?また中抜き?

Gジャンとの決戦前夜祭の食卓の上にある缶ビールはキリン一番搾りだったような…

ピントがきてなかったから定かではないのだが、キリン一番搾りっぽい。

これは電通の仕業か?
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