MasaichiYaguchi

山歌のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

山歌(2022年製作の映画)
3.7
高度経済成長期の1965年を舞台に、嘗て日本の山々に実在した流浪の民・山窩(サンカ)を題材に、孤独な少年と山窩の一家の交流を描いたドラマは、時代は違っていても、バブル崩壊、自然災害、コロナ禍を経て価値観が変化した我々に、本当の豊かさ、本当の幸せを問い掛けているような気がする。
モチーフとなっている山窩とは、財産も戸籍も持たず、山から山へ旅の生活をし、竹細工や籠、蓑等を作り、川魚を獲って売ることで日々の糧にしている。
このような彼らは時に社会から蔑まれながらも、自然と共生した日々を送っていた。
東京で暮らしていた中学生の則夫は、受験勉強のため田舎の祖母の家へやって来る。
或る日、彼は山から山へと旅を続けるの山窩の家族と偶然出会う。
父親から一方的な価値観を押し付けられることに生き辛さを感じていた則夫は、既成概念に縛られず自然と共生する彼らの姿に惹かれていく。
だが、高度経済成長期にある日本の社会は、このような流浪の民を容赦なく追い込んでいく。
そして、則夫は自分も父親と同類の加害者側だということに気付き、或る行動を起こしていく。
これだけ便利な世の中になると、山窩の家族のような生活をすることは現実的ではないと思う。
だけど、ふと立ち止まって、自然の営みに耳を傾け、その中に身を置くことの大切さを本作は教えてくれているような気がする。