Omizu

世界が引き裂かれる時/クロンダイクのOmizuのレビュー・感想・評価

3.8
【第72回ベルリン映画祭 パノラマ部門エキュメニカル審査員賞】
ウクライナのマリナ・エル・ゴルバチ監督による作品。サンダンス映画祭で監督賞を受賞、ベルリン映画祭ではパノラマ部門に出品されエキュメニカル審査員賞を受賞した。

非常に美しく、完成度の高い作品だった。ロシアによるウクライナ侵攻の前に撮られているにも関わらず、その後を予期させるような作品になっている。

後から知ったが、実際の事件を基にしているという。2014年にウクライナのドネツク州で実際に起こったマレーシア航空17便撃墜事件を背景にし、ロシアとの国境地帯に暮らす夫婦を描いた人間ドラマ。

前半は「これ何の話?」という困惑が大きかったが、後半になり事情が分かってくると映像も含め魅せられてくる。情報の出し方が上手い。

非常に長いワンカット、美しい風景のショットなど撮影としても素晴らしい。一軒の家から基本的にカメラは出ないのだが、それで成立させるのがすごい。そもそも爆弾で壁に穴が空いた家というビジュアルがまず衝撃的で惹かれるものがある。

そこからゆっくりとしたペースで繰り出される親ロシア、反ロシアをめぐっての攻防戦。夫婦の生活を描きながら侵食していく戦争の影が恐ろしい。

劇場で見逃してしまって、配信はもうないかと思っていたのでされてよかった。かなり人を選ぶ映画だとは思うが、今に繋がるウクライナを描いた作品として一見の価値があると思う。
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