掛谷拓也

ザリガニの鳴くところの掛谷拓也のレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
3.8
翻訳書を買っていたが読み切る前に映画をレンタルして見た。ノースカロライナ州の湿地の小屋で暮らすホワイトトラッシュの家族に生まれた少女の成長譚。父親の暴力に耐えかねて母親が湿地を出、兄弟も湿地を捨て、最後には彼女を残して父親も消えてしまう。6歳の彼女が1人で生き抜く中で、アメリカ中部の湿地の自然の美しさが描かれる。湿地と沼地が明確に区別されていることがはっきりわかった。「湿地の少女」と呼ばれ町の人たちに差別されながら、彼女は湿地の鳥や昆虫たちをスケッチし続ける。ソローが描いたマサチューセッツの森とは違うノースカロライナの湿地の豊かさと美しさが心に残る。殺人事件が起こって彼女が犯人と疑われるが、その後の展開は静かながらも法廷ミステリーとして面白い。彼女の湿地の自然についての博物学的洞察が伏線になっていたとわかる最後の場面がよかった。映画を見た後、原作のラストを拾い読みしたが「ザリガニの鳴くところ」がどこなのか、もっと重層的に感じられる。ホタルの詩の意味は映画よりさらに複雑に描かれている。家父長制に対するフェミニズム的抵抗という作品ではない。翻訳も読みやすいが、時間をかけて英語で読めばなおさらよかった。