近本光司

千の太陽の近本光司のレビュー・感想・評価

千の太陽(2013年製作の映画)
3.0
ジブリル・ジオップ・マンベティという孤高の映画作家が生きたダカールを、その姪のマティ・ディオプが訪ねるドキュメンタリー(この映画は叔父ではなく母に捧げられている)。いまとなってはジブリルの名も、40年前にこの地で『Touki Bouki』という映画が撮られたこともほとんど忘却されてしまっている。それでもそのころと変わらず角の生えた牛たちは道路を横切り、そうとは知らずに屠殺所へと向かっていく風景をカメラは捉える。『Touki Bouki』で描かれた結末同様、主演女優は海をわたって二度とセネガルに帰ることはなかった。主演俳優は現実でも昵懇の関係にあった彼女を追わず、ダカールに留まり続けることを選択した。彼は野外上映会に駆けつけるが、自分の若き日の選択を語る映画のことを誇らしく思っているのか、苦々しく思っているのか、わたしたちにはにわかに見分けがつかない。なけなしの1,000フランを叩いて、国番号001の国際電話をかける。40年ぶりに言葉を交わした彼女は、アラスカで石油採掘所の警備員の仕事をしているという。アラスカ? アラスカって、エスキモーたちが氷のもとで暮らしてるところだろ。ダカールに照りつける強烈な太陽とは、まったく異なる世界に身を落ち着けたかつての恋人。故郷とはそこを去った瞬間に生まれ、二度と戻ることができない場所である。大西洋のこちら側と、向こう側。この作品で到達した主題がのちの『アトランティック』に敷衍されていく。