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ミセス・ハリス、パリへ行くのLCのレビュー・感想・評価

4.0
面白かった。

タイトルに惹かれて、実際に見たら主人公にも物語にも惹かれて、見終わると笑顔になっていた。
Mrs. Harris goes to Paris って、リズムと韻が良い。そして物語も、リズムと後味が良い。

帰らぬ夫を待つ長い年月を透明人間として、明るく優しく生き抜いてきた人。
そんな彼女が、光差し込む明るい方へ朗らかに歩いていく姿がとても嬉しい。そして、嬉しさが大きい程にその後来る寒風に震える。
素直に喜び、柔らかくも強く道を切り開き、透明人間は周囲に活気をもたらしていく。何となく、彼女に要所要所で救いの手が差し伸べられることに納得してしまう。

一生懸命お金を貯めて来た。彼女のその言葉がどれほど嬉しかったのか、働く人々を取り巻く状況に思いを馳せる。
地位やお金を持つ人が見栄や娯楽の為に消費しに来たのではなく、商品に心底惚れ込んだ人が夢いっぱいに遠い旅路を、実際に経て来た。
Diorが抱える問題を目の当たりにした彼女が、爽やかにストライキを先導する姿には痺れる。
問題改善の為の話し合いとアイデアの共有は、忙しさの中で後回しになっていく、わかる。Diorの存在定義や価値に関わるなら、尚更。聖域を守りたい気持ちも理解できる。それは今あるDiorが好きな人みんなそうだろうし、作中でも実際そうだったのだろう。

透明人間。
掃除して炊事して布物をメンテナンスして、自分がそうしている横で人は当たり前のように利益を享受する。雑務を押し付けて、対価も払わないままに。主人公が「その仕事を簡単に手放せない」状況だから。どう扱われても働くしかないと、雇用側がわかっている。だからこそ、仕事外での扱いにもその考えが反映される。
世の中色んな透明人間がいるけれど、本作の透明人間はそういう感じ。プリンセスのドレスを作る兎や鳥。兎や鳥の方が目立つ分、人である主人公は透明度が跳ね上がる。
親友が、透明人間だからって何さ、ここにいて音楽に身体を揺らせて楽しく過ごすんだと笑う人で、彼女も同様にしなやかな強さを持っているとうかがえる。

でも、やっぱりパリで出会った恋の予感に、切ない背中を向けたまま帰国したことを、ほんのり寂しく思う。
きっと、ゆっくり繊細に交流を重ねていくかもしれない。
あの時あの言葉に傷付いてしまった主人公の気持ちも、ただただ魅力的だと伝えようとした彼の気持ちも、優しい速度で接し合っていけたら救われる。私が。
たぶん最後のダンスは、作中で彼女自身が言う「ショー」だったように感じる。オートクチュールってわざわざ言ったの、そういうことなのかな。

ボスの目を盗んで機転を効かせたあんちゃんは、マジで「他者を笑顔にさせる人の笑顔が曇った時に、その人を笑顔にする」系の人で、最高にかっこいい。
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