Mikiyoshi1986

野いちごのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

野いちご(1957年製作の映画)
4.0
6月1日の夜(もしくは6月2日の早朝)は本作の主人公イーサク・ボルイ教授が悪夢を見た日!
ということで今日は「野いちご」の日になりますね、はい。(無理矢理)

そして今年は「野いちご」公開から数えてちょうど60年目に当たります。
前作「第七の封印」の成功に続くイングマール・ベルイマン監督の傑作のひとつに数えられ、
名誉博士号の授賞式に向かう老教授の1日に焦点を当てた人生論。

「人生論」といえば自ずとトルストイの著書を思い出しますが、本作はまさにその核心部を映像化した作品とも云えるのかも知れません。

その道中で出会う人々や思い出の場所を通して自身の過去を遡行し、虚無や孤独、後悔、信仰、妄想など、内なる心象の旅へと繋がっていく映像の妙。

老境に入り、死が目前にせまろうとする時、自身の生き方を振り返ることで、我々は一体この余生に何を授けることができるのか。
今までの医者としての生き方、家族との接し方、目を背け蔑ろにしてきた煩わしいことの数々。

そうした過去と真正面から向き合い、精神的負債を象徴する野いちごが消滅した時、
人は初めて豊かな人生を歩むことができるのかも知れません。

これをベルイマンは脂の乗った39歳の時に制作したわけで、
この人生の悟りへと続く心境を名優シェストレムは重厚な演技で以て見事リアリティーに富んだ死生観へと昇華させたわけであります。

ちなみに前作「第七の封印」の重要な"死"のアイコンであるチェス盤を、冒頭で然り気無く忌避するというニクい演出にも注目です。
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