バルバワ

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのバルバワのレビュー・感想・評価

4.2
隠れシネシタンなんて家族泣かせな活動をしていると背徳感で胸が痛くなる時がありますが、今作のような作品を観るとこの世にはとんでもないクズがいるのだなぁと背筋が寒くなりますな。

いやぁ、怒り。

あらすじはハリウッドのクソセクハラプロデューサーのド最低な悪事を二人の女性記者が暴く!…的な感じです。

【派手さはないけれど】
今作はど派手なアクションやCGを多用した観たこともないような映像等はなく、育休明け突撃記者ミーガン・トゥーイーと育児真っ只中寄り添い記者ジョディ・カンターの二人の女性記者が実直に取材を重ねていく様子が丁寧に描かれ、記事を書いているか取材をしているかというシーンが続きます。

劇伴もカメラワークも控え目で一見地味な映画とも捉えられるかも知れませんが、全く退屈しませんでした。何故なら出演されている俳優さんが皆さんとてもお上手だったからです。

トラウマを思い出し唇を震えたり、怒りが込み上がっていることが目だけで表現していたりと微細でとても抑えられた品のある演技で物語にグイグイ引き込まれました。

あと、クソセクハラプロデューサーで有名であるクソセクハラプロデューサーことハーヴェイ・ワインスタイン周りの人々も皆が皆邪悪というわけではなく葛藤を抱えている良心の呵責に苦しむ姿があり、この事件のことを多角的に知ることが出来ました。

こういう地に足がしっかりとついた作品を定期的に観ていきたいですね。

【キ、キモい!】
作中、ワインスタインがどのように犯行に及んだかが被害者の方々からの証言や取材で明らかになります(犯行の描写自体は被害者の方がフラッシュバックされないように省略されておりました)。
まず全部手口が同じであることに驚き、次に自身の性欲を全く制御出来ていないことに嫌悪感を覚えました。

そして、作中被害に遭われた方のひとりをワインスタインが執拗に誘う実際の音声が流れるシーンがあるのですが、これぞ醜悪の極みという感じで聞き苦しいにも程がありました。

これは全人類が気持ちの悪いと思うシーンとして映画史に刻まれるのではないでしょうか。

【本当のヒーロー】
被害に遭われた女性は心に大きな傷を負わされて、人生を修正することも困難で取材や発言を断っても致し方ないこの事件。しかし、彼女らは口を揃えるように同じ思いをした女性の為にと発言します。これは被害に遭われた女性が主人公記者ミーガンとジョディのワインスタインの悪事を絶対に白日の下に晒すという正義感と自身の中にある勇気と怒りに突き動かされたのからだと思います。そして、彼女らは自分の尊厳を必死に取り戻そうとし、それを貫いた…カッコ良すぎますよ。

あとミーガンとジョディと志しを共にしている職場の上司も頼もしかったです。

また、被害に遭われた女性の一人がジョディの取材に応じると自宅で決心するシーンでテレビから聞こえる"あの"テーマ曲…今作で誰がヒーローかがわかるという解釈は穿った観方かもしれませんね💦


【最後に】

今作を観たことで最近劇場で目にする『なのに 千輝くんが甘すぎる。』という映画の予告を「ワインスタイン案件か?!」と過剰反応してしまうようになりましたよ!…バレンタインデーに何を言っているんだ。

正気に戻ります。


#MeToo運動の原因となったワインスタインの事件のことをよく知ることができ、改めて性的被害に遭った方々を突き放し容疑者を守るような社会のシステムに疑問を持ち、ワインスタイン並びにその取り巻き連中を正しく気持ちの悪がれるようになりました。

ラストカット、在りし日の彼女らの姿が脳裏に焼き付いて離れません。"絶対に許してはならない。"そんな怒りにも似た迫力を作品から感じ、娘を持つ父として、妻と一緒に踏ん張っている夫として観て良かったと心から思える作品でした。
バルバワ

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