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SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのsyuheiのレビュー・感想・評価

4.0
2022年のマリア・シュラーダー監督作品。

NYTの記者ミーガンとジョディは映画界の大物プロデューサーであるワインスタインが女性従業員や俳優に対して性加害を日常的に行っているという告発情報を得る。関係者への聴き取りや調査を続けるうちに2人は被害者が声をあげられず事実上セクハラや性加害が隠蔽されている業界の構造を突き止めていく。

今日に続くMeToo運動の発端となった事件の1つであるワインスタイン報道の舞台裏を事実に基づいて描いた社会派劇映画。性加害に関する調査報道モノという点では『スポットライト 世紀のスクープ』にも通じるが最初の実名告発者となった被害者のアシュレイ・ジャッドが本人役で出演しているのは驚きだ。

ワインスタインによる性加害の具体的な描写は証言やセリフのみにとどまる。被害者への配慮というのもあるだろうが、そもそも後半に登場するワインスタインは後ろ姿や他の人物の影に隠れて描かれるにとどまっていることから「そもそもお前の話じゃねーよ」という強い拒絶のメッセージとも受け取れる。

そう、本作の中心にいるのはNYTの女性記者たちと、彼女たちの調査の姿勢を信頼して声をあげた女性たちだ。彼女たちの来し方や境遇、つまり人間としてのディテールがかなり細かく描かれるが、その手法そのものが、女性を単なる記者や被害者といった記号的存在に矮小化しない姿勢の明確な表明と言える。

だからこそタイトルの"She Said"が活きる。多くのSheが様々な発言をする。誰が何を述べた(Said)のか?あるSheは勇気を振り絞った被害体験を、あるSheは告発記事の協力要請を、あるSheは他者への労りを、あるSheは…。Sheたちの声が結びつき大きなうねりとなって世界を揺るがす記事に結実していく。

最近では日本の芸能界でも複数の性的スキャンダルが取り沙汰されており被害者たちが団結し声をあわせて告発する構図は本作で描かれる事件に通底する。本作を観れば、そうした事件を表沙汰にすること自体が被害者側にとって大変な負荷になることも十分理解できるはずだ… というかそう願いたい。

NYTのライバル的存在としてワシントン・ポストに言及される。ポストと言えば『大統領の陰謀』。今作の女性記者コンビ描写はポストのあの記者コンビを彷彿。優れた調査報道系映画は優れた記者の働きがあってこそ。日本のメディアの皆様にも期待してます。『新聞記者』程度で溜飲下げてる場合ちゃうで。

https://x.com/syuhei/status/1745387639874916452?s=20
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