クシーくん

夜歩く男のクシーくんのレビュー・感想・評価

夜歩く男(1948年製作の映画)
3.8
実話を元にした実録風犯罪物。ロサンゼルスの簡単な紹介と全景から始まるドキュメンタリーチックなOPがカッコいい。

凶悪な犯人を追う刑事たちは仲間を撃たれたことから感情的な部分もやや見せるものの、クロフツの「樽」のような地道な捜査を淡々と行っていく。被害者の証言を基に作り上げていくモンタージュ写真など、当時最新の犯罪捜査の手法が紹介されているのが逆に新鮮で面白い。その一方で犯人の性格にも余り触れないのがまた興味深い。まだプロファイリングという言葉が定着しておらず、現在ではお馴染みの犯人の内面に触れる描写がなかったのか、それとも敢えて犯人の心理面を排除しているのか。セミドキュメンタリー形式であるが故に、殊更に犯行動機や内面を犯人が語らないのが何を考えているのか分からない異常性を効果的に際立たせている。

犯人が下水道を利用して次々と強盗を繰り返す描写がなかなか斬新。警察から逃げる際も道路脇の排水溝からするりと地下に逃れ、ロサンゼルス中に張り巡らされた地下道を自在に逃走する様はまるでオペラ座の怪人のようである。「IT」でも感じたが、アメリカの排水溝はあんなに大きくて事故が起きないのだろうか。子供くらいならすっぽり入ってしまいそうだが。

ラストの逃走劇は激渋。フィルム・ノワールには欠かせないジョン・オルトンというカメラマンが撮っているとのことだが、B級映画だと少々侮っていた事を反省するほどの良さに驚いた。「第三の男」を髣髴とさせるクライマックスだが、矢張り同じように感じた人も少なくないようだ。公開年はこちらのが先だが、オーソン・ウェルズが果たして本作を観ただろうか?単なる偶然の一致かもしれない。
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