SANKOU

ボーンズ アンド オールのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

人を食べなければ生きていけない人種といえば、石田スイの漫画『トーキョーグール』を真っ先に思い出す。
人類を脅かす存在として駆除の対象になっているグールは、人間社会に溶け込みながらも人間を食べなければ生きていけない孤独で哀しい存在として描かれていた。
そしてこの映画に登場するイーターと呼ばれる人種も、同じように孤独を抱えて生きている。
もっとも人間を食べなければすぐに死んでしまうという存在ではないようだが。
イーターである少女マレンは、打ち解けたはずの友人の指を噛みちぎろうとしてしまう。
父親はまたやってしまったのかと、すぐに逃げる準備をする。
母親はどうやら不在のようで、この父子は何か問題があるごとに住みかを変えながら生きて来たらしい。
しかし父親はついにマレンを置いて姿をくらましてしまう。
マレンは出生証明書に記載された母親の出生地であるミネソタを目指して旅に出る。
バージニアから始まり、マレンはあらゆる場所を旅する。
出発してまもなく、彼女は同族であるサリーという老人に声をかけられる。
イーターはイーター同士、匂いで分かるらしい。
サリーは食べた人間の髪の毛を集めロープを作るという不気味な趣味を持っていた。
サリーもまた食べた人間の家にしばらく住み着き、その後また旅に出るという孤独な生活を送っていた。
サリーは自分の孤独をマレンで埋めようと思ったのだろう。
しかしマレンは彼への不信感からすぐに逃げ出してしまう。
そして彼女は初めて自分の嗅覚でリーという同族の青年を見つけ出す。
彼は彼女が初めて心を通わせることの出来るイーターでもあった。
イーターにも危険な存在はいるらしく、彼らは人間を骨ごと食べることの快楽を語る同族に出くわす。
その男と行動を共にしている警官は、イーターでもないのに人間の肉を食らう変人だった。
マレンは自分の母親を探すために、リーと共にドライブに出る。
途中立ち寄ったカーニバルで、リーは同性愛者と思われる男を誘い、性行為の途中で男を食い殺してしまう。
独身とばかり思っていた男だが、実は妻と幼い子供がいたことが分かる。
知らなかったこととはいえ、改めてイーターの宿命に戦慄するマレン。
罪悪感を覚えるマレンに対して、リーはこれは避けられない運命だと自分を納得させようとする。
マレンはようやく自分の母親が入院している精神病院にたどり着く。
自分と同じくイーターである母親は、自分の両手を食べてしまったようで、まともに話も出来ない状態だった。
そこでマレンは母親が15年前に自分に宛てて書いた手紙を読む。
そこにはマレンへの謝罪の気持ちが述べられていたが、急遽母親は自分と同じ怪物である娘を殺そうと襲いかかってくる。
期待を裏切られたマレンは激しい怒りと共に精神病院を後にするが、やがてリーとも喧嘩別れしてしまう。
すると再び独りになったマレンの前に、待ち構えていたかのようにサリーが姿を現す。
サリーはずっとマレンの後をつけていたらしい。
行動を共にしようと誘うサリーを、マレンはきっぱりと退ける。
態度が急変したサリーは悪態をつきながら去っていくが、彼は初めて人を食べた後に側にいてくれたマレンのことが忘れられなかったらしい。
彼はとことん孤独で寂しい人間だ。
そしてマレンも一度心を通わせたリーのことが忘れられず、拒否される怖れを抱きながらも再びリーの元を訪れる。
リーはかつて同族である自分の父親から暴力を受け続け、生きるために彼を殺して食べてしまった衝撃の過去をマレンに語る。
以来、リーはずっと孤独な旅を続けている。
マレンとリーは今度こそ二人で普通の生活を送ろうと決心する。
つかの間の幸せなひととき。
しかしそれを邪魔したのはサリーだった。
彼はマレンが自分のことを嫌いでも構わないと彼女に襲いかかる。
もはや彼には正常な判断が下せない。
極端な孤独は人を狂わせる。
マレンのピンチを察したリーは、サリーを引き離そうとするが、抵抗するサリーに深傷を負わされてしまう。
やっと手にした普通の生活を壊された怒りで、マレンは何度もサリーをナイフで突き刺す。
やがてサリーは息を引き取るが、致命傷を負ったリーにも助かる見込みはなかった。
すると彼は彼女に言う。
自分を骨ごと全部食べて欲しいと。
タイトルの意味がここで繋がるのかと感心させられた。
骨ごと全部食べることと、愛することは同義だ。
最初は彼の願いを拒絶するマレンだが、最後には彼のすべてを愛するために彼の願いを聞き入れる。
際どいテーマの作品だが、この残酷で哀しいラストが、美しい余韻を持っていつまでも心に残り続けた。
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