のほほんさん

ヒトラーの死体を奪え!ののほほんさんのレビュー・感想・評価

ヒトラーの死体を奪え!(2022年製作の映画)
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なんとなく期待できそうと思ってて、やはり期待通りに良かった。


ヒトラーほど映画でこすられる人物はなかなかおらんだろう。中にはアフリカでカンフーやるとか月の裏に基地作ってるとか謎のネタもあるが(笑)、本作はヒトラーという歴史上の人物が持つ重さを媒介にして、荒唐無稽とも言える架空の話に重厚さをもたらした作品だった。


自宅に押し入られた老婆がスタンガンで反撃という意外性のある導入。思えば押し入った男は(恐らく)オオカミのマスクを被っていた。
しかし老婆はかつてロシア兵としてヒトラーの死体を運ぶ極秘任務を担った人であり、そんな彼女を襲ったのがオオカミの皮を被った残存兵やナチスの残党だった。


夜に襲われても死体は隠し続けられるよう、毎晩埋める兵たち。何を運んでいるのか分からない粗暴な兵の中には命令に従わず村に出てトラブルを起こす者も。
ロシア兵に協力的な者や(彼はドイツ系ポーランド人という複雑な立場にあった)、ドイツ兵・ロシア兵どちらにも虐げられた者たちの存在も描かれる。



理不尽な暴力が起きる戦争の現実を描きつつ、ヒトラーの死体を巡ってロシアとナチスの対比がある。
主人公はヒトラーの蛮行を憎み、彼の所業により失われた命を悲しむ。それ故に死体を運び、それを証拠として示すことでヒトラーの終焉を世に示したい。
一方でナチスは死体が偽者であるとアピールし、総統健在をアピールしたい(手術をビデオ録画!)。


死体に対する両者の執着は一見どちらも狂気とも言えそうだが、それぞれの心の有り様の違いたるや。


戦闘はいずれも少人数同士のものなのだが、むしろゲリラ的に現れる敵の不気味さや身近に弾丸が飛び交う風切り音などで充分な迫力。


不死身感ある味方のトールさん(名前の由来は北欧の神が持つハンマー。デビッド・リンチに似てる)の優しさや強さ、逆に弱さが粗暴さに表れる味方など、人物描写もさりげなくも的確。
94分という上映時間で架空の話でありながら、非常に見応えのある素晴らしい作品だった。


「未体験ゾーン」の今年のイチオシかもしれん。