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ホームレス ある家族の選択のkuuのレビュー・感想・評価

3.6
『ホームレス ある家族の選択』
原題 홈리스/Homeless
製作年2022年。上映時間83分。
韓国の若い夫婦が住居を失い、幼い子供を抱えながら世間の荒波にもまれ続けるさまは過酷そのもの。
余裕を失い、衝突を繰り返し、きしんでいく夫婦関係の描かれ方に胸が痛む。

引っ越しを控えた若い夫婦、ハンギョルとコウン。
新生活を目の前に気持ちを高ぶらせていたが、何と保証金詐欺に遭っていたことが発覚する。
行く当てを失ってがく然とする2人。
孤独感を増していたハンギョルは、コウンを連れてある家に向かう。。。

ホームレスを目にする機会は一見、日本に比べて少ないように感じると韓国に旅行に行った人は云う。
しかし、統計によれば韓国国内では約9千人が路上生活を送り(実際はもっとやろけど)、日本の約3400人(厚生労働省調査。あくまでもお役所の調査やしトー横キッズやグリ下キッズなど統計に入れてるかどうか怪しいが)に比べても相当多い。
一定の収入に届かない高齢者の貧困率は約4割に達し、先進国では最悪の水準やそうやが、意外にも若者のホームレスも少なくないとか。
そんな中にあっても、今作品のようにホームレスでもスマホなどの機器に適応する姿を含めて、彼らの『生活力』を感じさせられる。
日本でも、最近のホームレスのドキュメンタリーを見てても、数人はスマホやゲーム機器をもってる人もいる。
韓国の福祉問題の記事によると(偏りがあるやろとは思うが)、普段は住宅をまた貸しして路上生活を送り、極寒の冬季のみ路上を離れる『半ホームレス』も存在するそうな。
扠、イム・スンヒョン監督の長編デビュー作となる今作品は、赤ん坊を世話する両親の姿を追うことで、主人公たち自身の子供時代を振り返る。
今作品では、赤ん坊のウリムが、愛情深い両親のハンギョル(チョン・ボンソク)とゴウン(パク・チョンヨン)に温かく育てられる。
ただ、普通の優しき父母とちゃうのは、彼らはサウナからサウナへ移り住みながらアパートを探すホームレス。
ギグ・エコノミー(フリーランスなどの立場で、単発もしくは短期の仕事を請け負う働き方)で生計を立てていたハンギョルは、ある解決策にたどり着く。
しかし、これはやがて、より不吉なことの影を帯びてくる。
今作品はこのままホラーへの移行が可能なほどの作りになってた。
個人的には韓国で社会派ドラマが増えるのはいつも嬉しい。
隠されたり忘れられたりしがちな問題を扱う場合は特によき哉(漢字で善哉、それやったらぜんざいやん)。
もちろん、ワーキングプアは世界的な問題であり、韓国だけの問題ではないやろう。
実際、ゴウンの両親も抵当流れで家を失い、相続した借金の問題が深刻化している。
『なぜ私たちはこんな生活をしなければならないの』と彼女は尋ねるが、イム監督も、彼女の夫も、勿論、観てる側の小生も適切な答えを持っていない。
ドラマの観点から云えば、イム監督は比較的新人のチョンとパクに作品の感情的な重みを担わせる力量があるし、ホラー作品を是非とも撮ってほしい。
個々の苦悩や諦念が胸を打つ瞬間もあるが、イム監督は家族の絆を描いた静かな瞬間に、彼らがただ存在するだけの空間も与えている。
『パラサイト』や『万引き家族』との比較は避けられないだろうし、家族をテーマにした階級ベースの悲惨なドラマの流れに乗っている部分もあるが、それでもこれはワーキングプアを背景にした緊張感のある小さな作品やけど個人的には思ったよりよかった。
わかりにくい部分や描かれてない部分は想像、妄想、願望をフル稼働しなきゃならんかったけど、結末には必然性が感じられるが、ドアを出て行く途中で安易な答えを提示しなかったことは大きな賞賛に値するかな。
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