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ロスト・キング 500年越しの運命のLCのレビュー・感想・評価

4.1
とても面白かった。

主人公が素人であることもそうなんだけど、更に女性であるが故に侮られる場面もちゃんとあって、色々な悔しさを上手に描けているように思う。その上、齢は40をとうに過ぎ、病気持ちだ。
どんなに努力しても正当な評価を得づらい立場の人であることが、一瞬でわかる。
そんな彼女が、ある日見た劇で、ある人物に関心を寄せる。

何かを楽しむ時に、素直に感じたこと、考えたこととして「この部分は不自然な気がするね」「ちょっと変な感じがするね」「あれって何でだろうね」等と言うと、「批判か」「悪口か」「そうやって否定するのか」と言う人がいる。
主人公に対する様々な人の姿勢を見ていてもわかるけれど、改めて疑問に感じる部分を掘り下げたいという気持ちは、他者にとってめんどくさくて目障りなものでしかない。
彼女は、有意義な意見、情報の交換を求めていたわけで、シェイクスピアに対して何の恨みも持ってないし、劇を楽しんでいる人を攻撃もしていない。なんなら彼女だって彼女なりに大いに楽しんだのだ。だからこそ違和感を共有したかった。
ところが「批判か」と、まるで自分が悪いことをしているかのように反応された。
劇に限らずだけれど、深く理解したい、深い話をしたいという人にとって、かなりやりづらい土壌がいろんなところに出来ている。

他者の意見をよく聞いて、その上で自分の意見も述べる。そういうことのできる人が少ないことは、物語が進むともっともどかしさを覚えるようになる。大学の中の人だって、まともに取り合ってくれないんだから。知識がないから議論できないというわけでもなく、直接のコネのない人がどれだけ苦労してその場所に来たかに思いを馳せることもない。そのくせ協力する動機は、お金。何かの探究でも何でもない。
金銭システムを構築した人はすごいね、世界を支配し続けている。少しでも大学にとって不利なこと、有利なことを秒速で判断して切り捨てたり都合良く拾ったりする彼は、このシステムの中では正解なんだ。お金の無駄遣い(成果の伴わない消費)を責められた時、誰が「真実の探究にはお金のかかるものだ」と言って納得してくれるのか。開き直りだと言われるのがオチだもの。
やっぱりもどかしいね。成果が伴わないことを失敗と捉えることも含めて。貴重なデータとして蓄積できるものだから。「経験上この方法では見つからないことが多い」と駐車場で言っていたように。

主人公が素直に言葉を紡げるのは、亡霊に対してだけだった。
理解を深めるにつれて、言葉を交わせるようにもなった。
ひとりの人間の汚名を返上したい、その一心だと本人は言うけれど、正当な評価をされず未来500年に渡りずっと悪者として語られるその人が救われることは、きっと、今を生きる彼女が救われることだったんだね。人は誰かに正当な評価をしてもらえる筈だ。今じゃないかもしれないけれど。
そして、スッキリといかない現実の中で「あなたは正当に評価してくれた」と亡霊に言われる。ちゃんと知ってくれた、と。
周りの人、その全てを変えられなくても、納得いく結論を一応は得られたことで、彼女は気持ちを落ち着けることができたのかもしれない。

何かを楽しむ時、自分の視点を大切にして良いし、気になったことは知ろうとして良いし、知ってそうな人に話を聞きに行っても良い。
納得できるまで考え続けて、追い続けて良い。本作のような歴史探究のロマンとは、元々そういうものではなかろうか。
そして歴史とは人が紡ぐものであり、人とは感情の生き物である。
大切な人とパイでも食べようか。
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