shunsukeh

ひとりぼっちじゃないのshunsukehのネタバレレビュー・内容・結末

ひとりぼっちじゃない(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

暗示や象徴がそこここに散りばめられ、とても難解な映画だ。鑑賞から1週間経ち見直しもしてみたが、未だに読み解けない。しかし、そろそろ関心を他の映画に移したいので、一旦のここまで思いついたことでの考察を行いたい。
主人公ススメは、人とのコミュニケーションに大きな問題を抱えている。冒頭の、彼が試す医療用の双眼鏡のような物の焦点が合わなシーンはそれを象徴的に表わしているが、このことは他の多くのシーンが明示している。そして、ススメと宮子との関わりは、二人の意図はそうではなかったとしても、その問題のカウンセリングのプロセスだった言える。五感の記憶話の遊びはその典型だし、彼らの恋愛やセックスもその一部なのではないか。そこで気になるのは、水音。それは、最初、ススメの欲情のBGMのように思えた。しかし、最後に水音がするのは宮子がススメが部屋に残したのっぺらぼうの宮子の木彫りを見たときで、これはススメのカウンセリングの完了と宮子の呪縛からの解放を意味しているのではないか。
その宮子の呪縛。彼女の施すのはカウンセリングであると同時に男を虜にする仕掛けだ。彼女の部屋番号は「101」。これはジョージ・オーウェルの小説「1984年」に登場する拷問と洗脳が行われる部屋と同じだ。この部屋でススメやその他の男たちが宮子に心を奪われていく。宮子とススメが観た演劇の、身を捨てて他者を救う麒麟の話では、宮子が男に身を捧げる麒麟であると同時に、その肉を喰らう者でもあると思える。また、宮子が持つその演劇の感想から、彼女が男を虜にするのは、それが楽しいからではなく、彼女の持つ業のようなものからだと分かる。一方、宮子を独占したいススメは、その代わりに彼女の木彫りを作り、それを抱きしめ、宮子の部屋に隠れて、あるいは、生き霊となって彼女を監視しさえする。
ススメは宮子の部屋に潜む自分の生き霊を見て、憑きものが落ちる。生き霊というのは、あまりにも強く、あるものに念を向けることによって、その念が姿をもってその対象の前に現れることだが、往々にして、強すぎる念はそれを持つ者を破滅に向わせる。生き霊を見て、ススメはそのようなことを感じたのではないか。ススメはそう感じたので、宮子との決別と自律的に他者との対峙し新しい関係性を結んでいくことを決意し、そのことを母親に告げた。
まだまだ、謎は多く、このような解釈が全てではないことは自明だが、更なる深読みは次の鑑賞の機会に行うこととしたい。
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