ちょげみ

フェイブルマンズのちょげみのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
3.7
【あらすじ】
1952年、親に連れられて行った映画館で「地上最大のショウ」を鑑賞し、映画に魅了された少年サミーは映画監督を志すようになる。
そして彼は、親との関係や映画監督を目指すにあっての現実的な問題など、様々な苦難に見舞われながらも、さまざまな出会いを通して成長していく。


【感想】
現代映画界最大の巨人として天聳るスピルバーグ監督。
本作はそんな監督の幼少期から青年期、映画を目指すきっかけとなった出来事から映画監督を本格的に目指す20歳前後のあれこれについて脚色を加えながら、しかし赤裸々に語っています。

「ジョーズ」「ジェラシックパーク」「E.T」など代表作を挙げれば枚挙にいとまがない、誰もが知るスピルバーグ大先生の幼少期の思い出にお邪魔して探検させてもらうというのは恐れ多くもありながら、しかし充実する映画体験でした。


そこで私がスピルバーグ大先生の半自伝映画を見て思ったことは大きく分けて二つ

①映画が持つ強大さと恐ろしさ

②スピルバーグ大先生の狂気



何かにハマって人生が一変するという経験は誰しも持つと思う。
それは、ゲームだったり小説だったり漫画だったりスポーツだったり何かの思想だったり旅行だったり、はたまた仕事だったり。
映画もその例に漏れず、お気軽に見れて尚且つはまりやすいため、多くの人の耳目を引くコンテンツであることは間違いない。
そしてそれらは、多くの人にとっては日常に潤いをもたらすにこやかな趣味として、さながら太陽の如く、多くの人を照らしつけ幸せにしている。

しかし、それはあくまでマクロ的な話で、映画に携わる事になるであろう少数の人間からしたら、映画はそんな生やさしいものではない。

本作に出てくる映画に携わる人々、具体的に言えばサミーのおばあちゃんの弟と伝説的な映画監督ジョン・フォード、彼らからしてみれば芸術、つまり映画は仕事の一環として、ライフワークバランスを維持しながら作るものではなく、人を追い詰め孤立されるもの、要は幸福だけをもたらすものではない。

おばあちゃんの弟は言う。
『映画(芸術)の道に生きようとするものは必ず家族か芸術かの板挟みに苦しむ。両立することなどできない、万が一にもだ。(かなり意訳)』
サミーが20歳の頃対面する事になったジョン・フォードもまさに芸術を極める一本道に身を投げた狂人、映画狂に見えた。

そう、マクロ的に見れば映画は多くの人に幸せを届けるコンテンツだが、ミクロ的に見れば、映画制作に関わる人にとって映画とは身をやつし、自身の命を捧げて燃焼させながら立ち向かうべきものなのだ。
そのまま燃え尽きるかも知れないし、最後まで走り抜けたとしても家庭も映画も手に入るという絵に描いたような幸せな家庭を築けるわけでもない。
しかし、それでも身を捧げたくなるほどの魔性的魅力が映画にはあり、その魅力はドラッグと表現して差し支えない。

映画というものが持つ光と影、プラスマイナス、裏表というのをこれでもかというほど思い知らされた映画だったかな。


②スピルバーグ大先生の狂気

スピルバーグ大先生の分身であるサミーは幼少期の頃に映画に目覚め、それからは狂ったように映画作りにのめり込む。
しかし、彼が中学生とかの頃に家族と父の親友であり会社の仲間(?)と行ったキャンプの動画の編集をしている最中に、母と父の親友が仲睦まじくいちゃついているのを発見してしまう。

彼はあろうことか、母と父の親友がいちゃついているシーンを編集して動画を作り、それを母親に見せてしまう。押し入れに閉じ込めて。
...このシーンはちょっと度肝を抜かれると同時にスピルバーグの狂気性を感じぜざるを得なかった。。。
そこに題材があるからといって、それが例え家族の不倫現場に近いものであろうとも、躊躇なく編集し映画として作る。
(それとも、母親を非難する気持ちを伝えるために最も効果的な方法が自分の得意な映画にして母親に見せる事だったからそういう思惑を秘めて作ったのかな、そこら辺は分からない)

ともすれば家族の崩壊を招きかねない、最も個人的な出来事ですら映画にしてしまう、そんな青年スピルバーグの映画に対する執着からは身の毛もよだつ思いを感じた。

それによくよく考えてみれば自分の過去の話すら『フェイブルマンズ』という映画にしているわけだしね。。。

彼の家族、個人的な事情より映画にしたいという思いが先立つ感じ、彼は自覚はなかったにせよ、青年期の頃から映画に身を捧げる覚悟を持っていたのかも知らない。


総括すると、一見ただの自伝映画に見えながら、そしてただの自伝映画ではあるんだけど、作中節々に印象的なショットないしシークエンスが垣間見れて、さすがは巨匠スピルバーグ、全く退屈せずにみれました。

本音を言えば映画館で見たかったけど、しかしスピルバーグがまだ現役の時にこうして見ることができて良かったかな。
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